EXPO2025 Theme Weeks

プログラム内容

*字幕:YouTube動画の右下「歯車」マークの「字幕」よりお選び下さい。
(複数言語、音声が重なる際等、字幕が掲出されない場合があります)


たとえばかつて公害は個別の一地域だけの問題として扱われ、国全体や世界的な共通課題として認識されてはいませんでした。振り返れば京都議定書の発効と愛・地球博が開催された20年前、この時を機に普遍的な環境問題への意識が急速に高まり、今や環境への意識は生活の一部になったといえます。
翻って文化は今どのように捉えられているでしょうか。暮らしや祭礼において総合的に結び合っていた様々な文化は個別の存続問題として扱われ、失われていこうとしています。問題は国内に限りません。グローバリゼーションの進展によって、人類は今まで経験したことのない広範なレベルの文化的危機にあります。有形無形を問わず、文化を現代の課題として考察したとき、個別具体の問題としてでは解決できない、人々の広い意識の向上と具体的な行動変容が求められています。
やがて2050年になった時に振り返って、この時を機に普遍的な文化の問題への意識が高まったと言われる現在をつくりだすため、環境問題が今そうであるように文化が人々に意識され行動される対象とされることを目指します。

実施レポート

【振り返り】
今回のシンポジウムでは、「文化の次世代への受け渡し」を形骸化させず、精神性や思想ごと継承するための具体的な方策が多角的に提示された。危機感から守るべきものとして文化を囲い込むだけでなく、内と外を流動させながら、関わる人を広げ、担い手や場そのものの多様化を促す方向性が共有された。

特に強調されたのは、「旗を掲げる」「遊びの余地を残す」「共に関わる場を開く」といった能動的な実践である。伝統や技芸においては、型や知識を超え、その根底にある「なぜそれが継がれてきたか」「何を大切にしてきたか」という問いを繰り返し掘り下げること、また、その過程を個人の体験や愛着と結びつけることが、精神の継承に直結するという指摘があった。精神性とは理念や規範を押し付けることではなく、自発的な関与や「自分がそこにいてよい」「好きだと思える」感覚を媒介として伝播していくものであるとの認識が共有されている。

また、次世代への開かれた文化の継承には、従来の徒弟制度的な「閉じた型の中だけでの継承」にとどまらず、暗黙知の見える化や、他領域・他者とのネットワーク化が不可欠とされた。AIやデジタル技術によるデータ化・可視化、コミュニティの構造設計、合意形成手法の刷新といった具体的なツールが、従来は言語化困難だった「精神性」を社会全体の財産とするための鍵になると指摘された。

小規模な150人規模のコミュニティから大規模なプロジェクトまで、意義ある旗を掲げ、そこに多様な参加者を呼び込み、遊びや余白をもった場を作ることが、精神性の“生きた継承”を生む。さらに、合理性で割り切れない感情やご縁・愛着といった要素もまた、コミュニティやプロジェクトの推進力となりうる。制度や仕組みで支えること、AIなどを活用してコミュニケーションを媒介・拡張すること、異分野・異世代を横断した対話の場を増やすことなども、精神性の伝播を後押しする手段として提案された。

文化の継承は、単なる技術や情報の伝達ではなく、多様な人間の関わりと、それぞれの立場での「意味の発見」の連鎖によって成立する。形とともに精神性を渡していくには、関与を誘発する場や仕掛けを増やし、選択肢や居場所としての文化の厚みを社会に埋め込むこと、そしてその過程自体を「更新可能な営み」として共有していくことが必要である。


【会期後の取組み】
継続した議論の場を持ちつつ実践的なプロジェクトへと結びつけていくべく、今後も参加メンバーを流動させながらミーティングを行っていく。第1回はうなぎの寝床創業者白水高広氏を招き、下記具体的なプランを討議した。

1. 「失われゆくものへの大供養祭」を軸とした文化共創エコシステムの構築
かつて自然との共生の中で循環していた日本のものづくりは、近代化とともにその循環が失われ、個別の産業として孤立・衰退している。この課題に対し、単に個別の文化や工芸を保護するのではなく、「失われゆくものへの大供養祭」というテーマを軸に、多様な文化・産業を横断的に統合するエコシステムを構築する。これは過去の祭りの復活、地域のルーツを辿る旅、あるいは失われた技術の再解釈といった形で具現化するプロジェクトとなる。このエコシステムのトップには、宗教や信仰に代わる多くの人々を巻き込める具体的な「大いなる目標」を据える。例えば「御所おこし」など、文化遺産としての京都御所を再活性化することで産業的な連携や新たな価値創造を促す。また「江戸城再築プロジェクト」のように歴史的なナラティブを共有することで、多様な参加者のワクワク感を喚起しパトロンとなる層を巻き込む可能性も探る。こうしたテーマ設定は特定の工芸や技法に限定せず、分野横断的な形で設定する。例えばポケモンと工芸展を参照して、多くの人々が楽しく参加できるようなゆるやかで遊び心のあるコンセプトを掲げることで、多様な関係者が自発的に集まり長く続くコミュニティを形成する。

2. 「ハレの場」と「ケの日常」の循環によるコミュニティ育成
エコシステム構築には、特別な体験を提供する「ハレの場」と、日常的な価値創造を行う「ケの日常・地域の関係性」を循環させるサイクルが不可欠となる。まずは関係性を構築できるイベント(ハレの場)を開催し、そこで繋がった人々がコミュニティを形成し、具体的な日常の価値創造(ケの日常)へと繋げる。このサイクルを回すことで地域内外から消費者を呼び込み、レジャーや研修、教育を通じてコミュニティを育成し、そのコミュニティからの出資や世論形成を通じて、設備投資などベースとなる資本投下を容易にするロードマップを描く。そのうえで相性の良いコミュニティや、具体的な開催場所を選定し、まずは小さく具体的なプロジェクトを立ち上げる。
* 次回ミーティングでは、こうした取り組みの主催者となりうる人物や、複数のコミュニティを繋ぐハブとなる人物を招集し、具体的な企画をさらに深掘りする。
* 既存のイベントや取り組みに「供養」というテーマで参加・出展する形も視野に入れつつ、新たな祭りを立ち上げる可能性も模索する。

3. デジタル技術を活用した文化のアーカイブ化と新たな価値創造
失われゆく伝統文化を次世代に繋ぐため、デジタル技術を用いたアーカイブ化を推進する。特に踊りやものづくりのプロセスは、AIの基盤学習データセットとして蓄積することで、誰もが学べる公共財となる。これによってたとえ失われた文化であっても、将来的にAIから学ぶことが可能となり、時代を超えて文化を繋げていくことが可能となる。また高品質なデータは、アニメやCG映画などのコンテンツ制作にも活用され、新たな収益源となる可能性を秘める。

出演者情報

モデレータ

徳永 勇樹

東京大学先端研創発戦略研究オープンラボ(ROLES)連携研究員/株式会社住地ゴルフ

1990年生れ。早稲田大学政治経済学部卒。英語・ロシア語通訳を経て、三井物産入社。鉄鋼製品輸出業務、大学院留学を経て三井物産戦略研究所に出向。2024年7月末退職。転職先の株式会社住地ゴルフでは、一切の業務が免除、勤務地・勤務時間自由という条件で日本・世界の文化研究に専念。

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酒井 一途

コーディネーター

1992年東京出まれ、兵庫県豊岡市在住。地域文化、アート、工藝等、領域横断的に聴き手となり、取材記事を作成。文化庁より民間委託された令和3年度文化観光高付加価値化リサーチチームとして、全国の文化・観光・まちづくりに携わる方々へのインタビュー及び記事執筆・編集を務めた。

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登壇者

山科 言親

一般社団法人山科有職研究所代表理事/同志社大学宮廷文化研究センター研究員

衣紋道山科流若宗家。代々宮廷装束の調進・着装を伝承している旧公家山科家の30代後嗣。令和の御大典や三勅祭にて衣紋を奉仕。各地で講演や展覧会の企画監修、企業や行政の顧問を務めるなど御所文化の伝承普及に取り組んでいる。

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太田 梨紗子

神戸大学大学院

日本美術史研究者。1994年、京都出身。専門分野は近世・近代京都画壇。映画衣裳の研究も行う。論文「日本漫画映画の生成を担ったもの—政岡憲三と京都における近代絵画の観点から」(『マンガ/漫画/MANGA-人文学の観点から』所載)等。神戸大学博士課程在籍。有職菓子御調進所老松・4代目当主太田宗達の長女。

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安野 貴博

合同会社機械経営CEO

AIエンジニア、起業家、SF作家。東京大学、松尾研究室出身。外資系コンサルティング会社を経て、AIスタートアップ企業を二社創業。デジタルを通じた社会システム変革に携わる。日本SF作家クラブ会員。
2024年東京都知事選に出馬、AIを活用した双方向型の選挙を実践。

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本嶋 孔太郎

RULEMAKERS DAO/日本DAO協会/共創DAO/100万人DAO/AiHUB Co-Founder/弁護士

次世代型の目的を持ったオンラインコミュニティであるDAOを活用した事業を、あらゆる領域・地域で行う。近年四国移住をして、ソーシャルセクターや伝統工芸芸能のエコシステム作りに従事。また共助共創の循環作り伊勢神宮/アイヌ×アート×スタートアップのプロジェクトなど、特定のvision達成のために人と制度を動かすソーシャルコーディネーターもしている。

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髙井 賢太郎

琉球舞踊・組踊 立方玉城流敏風利美の会

沖縄県立芸術大学大学院修了。国立劇場おきなわ組踊研修修了者及び組踊伝承者。琉球歌劇伝承者。琉球古典芸能コンクール 琉球舞踊部門 最高賞 受賞。(公財)沖縄県文化振興会にてプログラムオフィサーとして文化事業に携わる。退職後、琉球芸能の逆6次産業化をコンセプトに琉球コンパス合同会社を設立、代表を務める。

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町田 倫士

琉球箏曲、組踊 地方

琉球箏曲興陽会・琉球古典音楽湛水流保存会 所属。山内照子に師事。幼少期からのエイサー好きが高じて伝統芸能の道へ。琉球大学 法文学部 国際言語学科琉球アジア文化専攻にて、琉球文学・中琉関係史について見識を深めたのち、沖縄県立芸術大学(修士課程)へ進学。国立劇場おきなわ組踊養成研修では、人間国宝をはじめとする講師陣から組踊・琉球舞踊の地謡実技や琉球箏曲を学び、一般社団法人伝統組踊保存会より伝承者として認定された。現在は、国立劇場おきなわ主催の企画公演のほか、県内外で舞台活動に取り組んでいる。第53回琉球新報 琉球古典芸能コンクール 箏曲部門 最高賞 受賞。

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未来への文化共創 ウィーク

2050年の視点から文化を取り巻く現在をみる〜人類の共通資本としての文化の存続の仕方 アジェンダ2025共創プログラム

【2050年の未来像の仮説】
2050年には伝統・地域性をもつ文化がローカルでより一層その土地に根を張りつつ、副次的に先端技術によって物理的な距離や国境、時代さえも超えて存在します。あらゆる人々が文化への参入や関与をしやすくなっていることで、文化が人々の暮らしの中で生きている状態にあり、同時に文化によって人間としての主体性が育まれる、人と文化の相互の関係性が生まれるシーンが複数実現しています。当シンポジウムではこうした未来の文化共創のありかたを領域を超えて話し合います。
長い時間軸のなかで文化は培われます。自然環境がそうであるように、文化もまた失われるのは一瞬で取り返しがつきません。環境問題への取組みへの意識が高まったここ数十年をよき先行事例としつつ、文化を個別具体の存続問題に留まらない人類の共通資本として捉え、未来へと繋ぐ選択を導きだします。

  • 20250429日(火)

    18:0020:30

    (開場 17:30)

  • テーマウィークスタジオ
  • ※プログラム開催時間・内容は掲載時点の予定となります。変更については、当WEBサイトや入場券予約システム等で随時お知らせしてまいります。
  • ※プログラムの性質上、実施主催者の都合等に因り、ご案内時刻等が変動する可能性があります。

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