EXPO2025 Theme Weeks

プログラム内容

科学技術の進展により健康寿命が大幅に延びていく未来が、リアリティを伴い描かれ始めています。情報と選択肢が指数関数的に増加し、社会の変化は加速の一途をたどる中、私たちは長い一生の間に大きな環境変化を、未だかつてない密度と振り幅で繰り返し経験することになるでしょう。このような変化は、私たちひとりひとり、ひいては社会全体に想像以上に大きな負荷をもたらします。このような時代において、いかにして健康でウェルビーイングな未来を実現できるのか。このセッションでは、2050年の新たな社会のありよう、人間とテクノロジーの新しい関係性を、「スロー」を軸に探ります。

実施レポート

【振り返り】
わずか2時間のセッションではあったが、Shape New World Initiative「健康とウェルビーイング」調査研究報告書で伝えたかったエッセンスのうち、最も本質的な部分については参加者に伝わったのではないだろうか。

四次元相関の枠組みを用いて、現代社会における経済領域(Ⅰ次元)の極端な肥大化と他領域の萎縮という構造的問題を可視化し、加速社会における「スロー」の意義について多角的な議論を展開した。進化を止めたいわけではない。むしろ望ましい変化や進化は歓迎したい。けれどもやはり、経済領域の成長の最大化に最適化された社会ではなく、人が人として尊重される社会、いわば、個人と社会のウェルビーイングに対して最適化された未来を築きたい。

そのために、社会的には、進化するテクノロジーをウェルビーイングに資する形で導入できるよう、倫理的検証や社会的対話を含む包括的な枠組みの設定が必要だろう。個人レベルでは、科学技術を用いて生産性が向上した分、人が他の次元で活動できる余白を確保する必要がある。こうした「スロー」を促す制約や仕掛けが、不可欠となる。

各登壇者からは、それぞれの専門領域の視点を活かし、「スロー」に資する多様なアプローチが提示された。戸谷氏からは現代思想における技術論から見た「スマート」の意味するところと危険性の解説と「丁寧さ」の提案がなされ、小塩氏からは記憶を持つAIによるスローテクノロジーの可能性が提示された。長谷川氏からは人工子宮を用いたスペキュラティブデザインを通じた未来への問いかけがなされ、吉田氏からは、生体内デバイス技術の観点から見た健康長寿社会の展望と、生産性が向上しても作業量が増し余白を生み出せない現状について提示された。

上述の報告書の骨子を踏まえ、「加速するテクノロジーの進化についていかなければならない(他に選択肢はない)」という思い込みや、「スマート化や最適化は常になされるべき、よいものである」という固定観念に対して、一定の距離を持って捉えるための視点を参加者に提示できたことも、本セッションの大きな成果だろう。


【会期後の取組み】
セッション終了後、参加者の一人であり、報告書執筆の際ヒアリングのご協力をいただいたお一人から示唆に富んだメールをいただいた。

そこには、「万博の醍醐味は登壇者と参加者が一体となって未来のあり方を深く考えることにもある」「未来社会のデザインという行為は、一部の専門家に委ねるのではなく、社会に生きる多様な人々が問題意識を持ち、主体的に関わっていくことが重要」といった言葉があり、今回のセッションが目指していた方向性が参加者に確実に届いていることを実感した。

「現在の技術の世界では、一部のテックリバタリアンが理想の社会を追求し、一方的な形で突き進んでいる側面がある」という指摘もあった。これは報告書で論じた資本主義と情報化による加速の構造的問題と完全に合致する認識であり、こうした問題意識を共有できる人々とのネットワーク形成の重要性を改めて認識した。

今後の取組みとしては、「スロー」のコンセプトを掲げネットワークを少しずつ広げながら継続的に議論を重ねることで、より深化した理論構築と実践的な提案につなげていきたいと考えている。

そうした対話や今回のセッションで得られた知見を基に、学術論文や一般向け書籍の執筆を進め、「スロー」が拓くウェルビーイングな未来というビジョンをより広く社会に発信していく。特に、四次元相関の枠組みを用いた現状の分析や、バランス型構造の社会実装に向けた具体的な方策について、さらなる研究と実践を積み重ねることになるだろう。加えて、今回のセッションの中では十分に導入できなかった「未来倫理」の切り口から、スペキュラティブデザインを社会に埋め込むバランス型構造として活用し、そうした仮想の未来像をベースにした対話の場が日常となるよう取り組みたいと考えている。

出演者情報

モデレータ

佐竹 麗

一般社団法人たまに 代表理事

一般社団法人たまに代表理事、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント(SDM)研究科特任助教。研究者。専門は、システム思考の多視点かつダイナミックなアプローチによるウェルビーイング社会システム形成。北海道大学農学部卒、慶應SDM修士課程修了。書籍編集者、医療系スタートアップのコミュニケーションディレクター、英ケンブリッジ大学客員研究員等を経て、2021年より慶應SDM特任助教、一般社団法人たまに代表理事。慶應SDMでは、デジタル田園都市国家構想における地域の主観的ウェルビーイング指標の研究開発・普及活動を支援。一般社団法人たまにでは、システム思考やデザイン思考をベースにした人材育成、アートや互恵的活動を通じた地域におけるつながりづくりに取り組んでいる。

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登壇者

小塩 篤史

麗澤大学 工学部 情報システム工学専攻 教授、EdTech研究センター センター長

データサイエンス・人工知能領域の研究を背景に、研究者・起業家としてAIやメタバースなどのデジタル技術を用いて、人間の潜在能力の拡張をすすめている。特に、医療・教育などの人間と密接に関わる領域でのITやAIの研究開発を行い、ひとに寄り添う「やさしいデジタル・AI」や人間性や創造性を重視する「スローシステム」の研究・社会実装を行う。東京大学大学院情報学環・学際情報学府 特任准教授 , 株式会社HYPER CUBE取締役CTO、株式会社Four H代表取締役、PICORE株式会社取締役CSOを兼任。

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戸谷 洋志

立命館大学大学院 先端総合学術研究科 准教授

1988年、東京都出身。大阪大学大学院文学研究科博士課程修了。博士(文学)。専門は哲学・倫理学。ドイツ現代思想研究に起点を置いて、社会におけるテクノロジーの倫理のあり方を探求している。著書に『未来倫理』(集英社)、『スマートな悪 技術と暴力について』(講談社)など、他多数。

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長谷川 愛

アーティスト、デザイナー、慶應義塾大学 理工学部 機械工学科 総合デザイン工学専攻 マルチディシプリナリ・デザイン科学専修 准教授

バイオアートやスペキュラティヴ・デザイン等の手法によって、生物学的課題や科学技術の進歩をモチーフに、現代社会に潜む諸問題を掘り出す作品を発表している。岐阜県立国際情報科学芸術アカデミー(通称 IAMAS)にてメディアアートとアニメーションを勉強した後ロンドンへ。2012年英国Royal College of Art, Design Interactions にてMA修士取得。2014年から2016年秋までMIT Media Lab,Design Fiction Groupにて研究員、2016年MS修士取得。2017年4月から2020年3月まで東京大学 特任研究員。2019から早稲田大学非常勤講師。2020から自治医科大学と京都工芸繊維大学にて特任研究員。2023年から慶應義塾大学 理工学部 機械工学科 総合デザイン工学専攻 マルチディシプリナリ・デザイン科学専修 准教授。MoMA、森美術館、上海当代艺术馆、The XXII Triennale di Milano、アルスエレクトロニカ、NY MoMAなど、国内外で多数展示。著書に「20XX年の革命家になるには──スペキュラティヴ・デザインの授業 」(BNN新社)がある。

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吉田 慎哉

芝浦工業大学 工学部 機械工学課程 教授

2008年東北大学大学院工学研究科修了。博士(工学)。2022年4月より芝浦工業大学工学部准教授。2022年、科学技術への顕著な貢献2022(ナイスステップな研究者)に選定される。専門は微細加工学,微小電気機械システム(MEMS)。現在、小型超音波撮像素子や飲込み型デバイスなどの医療機器の研究開発に注力。

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健康とウェルビーイング ウィーク

"スロー"が拓くウェルビーイングな未来 アジェンダ2025共創プログラム

【2050年の未来像の仮説】加速する変化に対しスローなUXを埋め込み、生の豊かさを拡張させる未来
科学技術の進展により、健康寿命が大幅に延びることが予想されます。一方、社会の変化がさらに加速する中で、私たちは一世代の間に幾度もの大きな変容を、未だかつてない密度と振り幅で経験することになるでしょう。このセッションでは、2050年のウェルビーイングな社会のありよう、人間とテクノロジーの新しい関係性を、「スロー」を軸に探ります。

  • 20250621日(土)

    14:0016:00

    (開場 13:30)

  • テーマウィークスタジオ
  • ※プログラム開催時間・内容は掲載時点の予定となります。変更については、当WEBサイトや入場券予約システム等で随時お知らせしてまいります。
  • ※プログラムの性質上、実施主催者の都合等に因り、ご案内時刻等が変動する可能性があります。

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