EXPO2025 Theme Weeks

ハイライト

00:04:22 はじめに

00:35:50 パネルディスカッション:「狩猟採集性」と「学びと遊び」の関係性について

プログラム内容

*字幕:YouTube動画の右下「歯車」マークの「字幕」よりお選び下さい。(複数言語、音声が重なる際等、字幕が掲出されない場合があります)

テクノロジーが進化するAI時代において、私たちの「学び」や「遊び」はどのように変化するのでしょうか?
本セッションでは、モデレーターの落合陽一氏が「狩猟採集性」というキーワードを手がかりに、私たちの原初的な知的欲求や創造的行動について提起します。
パネリストには、教育、AI研究、インタフェースデザイン、グローバルな学びの実践など、多様な分野で活躍する専門家が集結。
「遊びながら学ぶ」ことの本質や、未来の学びにおける身体性・創造性の可能性を語り合います。

実施レポート

【プログラム要旨】
本プログラム「AI時代の学び・遊びのあり方」は、大阪・関西万博テーマウィーク「学びと遊びウィーク」の一環として、2025年7月28日10:00〜12:00に開催された。モデレーターはメディアアーティストの落合陽一氏。パネリストとして、学習科学者・公立はこだて未来大学教授の美馬のゆり氏、Sakana AI株式会社リサーチ科学者のタリン・カラーヌワット氏、東京大学およびソニーコンピュータサイエンス研究所の暦本純一氏、ELSA Corp共同創設者・最高経営責任者のヴァン・ディン・ホン・ヴ氏が登壇した。本セッションでは、急速に進化するAI技術が人間の学びや遊びのあり方に与える影響を多角的に検討し、未来社会における学び・遊びの価値と意味を探った。AIの発展により生活の多くが自動化される中で、人間がなぜ学び、どのように遊ぶのかという根源的な問いを共有し、各分野の専門家が具体的な実践例や研究成果を通じて議論を展開した。

【落合陽一氏 発言要旨】 
落合氏は冒頭、AI技術の急速な進化が文明構造や人間社会のあり方を大きく変化させている現状を、歴史的背景と未来予測を交えて詳細に語った。狩猟採集時代から農耕時代、産業革命を経て情報社会に至るまでの人類史を俯瞰し、各時代における主要な発明や技術革新の周期が劇的に短縮してきたことを強調した。特に、コンピューターの発明以降は発明のスピードが飛躍的に加速し、これまで数百年規模だった変化が数十年、数年、将来的には数日単位にまで短縮される可能性があると指摘。さらに2020年頃には地球上の人工物の総量がバイオマスを上回り、人工物と情報ネットワークが地球環境の主要構成要素となった事実を紹介し、これを『デジタルネイチャー』時代と定義した。自身が手掛ける大阪・関西万博のシグネチャーパビリオン「null²」を例に、人間が記号や形式を手放し、デジタル技術と新しい関係性を築く未来像を描写。このパビリオンは鏡面構造と変形機構を備え、内部では人工生命やデジタルヒューマンとの対話体験を提供し、来場者に「記号なき生命」の可能性を考えさせる設計になっているという。また、学びの動機に関して「暮らすために学ぶ必要がない時代」においては、学びは文化的価値の創造、自己実現、他者との共感形成といった新たな目的に向かうべきと主張。さらに、AIの発展で知識獲得が容易になる中、人間が何を学び、どのように遊びと結びつけるのかという問いを提示し、学びと遊びの境界線が溶け合う未来を展望した。最後に、本セッションを通じて多様な視点からの議論を重ね、新しい社会における人間らしい活動の意味を探ることの重要性を参加者に呼びかけた。

【美馬のゆり氏 発言要旨】
美馬氏は、学習科学者としての専門性と、市民参加型科学イベントの 17 年間にわたる実践経験をもとに発言した。彼女が主催するイベントは、子どもから大人まで、素人から専門家までが科学に触れ、予期せぬ発見や試行錯誤を楽しむ場として機能してきた。農業試験場や船上、街中など、研究室や学校の外に科学を持ち出し、参加者が主体的に関わる機会を提供してきた。活動の出発点は、科学を「特別な場所」で学ぶのではなく、日常生活の中に取り込み、誰もが気軽に参加できる文化として根付かせるという理念にある。この背景には、人間性を重視した学びをデザインする「Humane Learning Design」の考え方があり、疑問を持ち、対話し、遊びながら行動することが AI 時代の学びの核心であると強調した。美馬氏は、活動の中で得られた具体的なエピソードをいくつも紹介した。例えば、災害時に役立つ懐中電灯でテーブルライトを作るワークショップや、高校生による科学研究発表会、南極探検隊長を招いた鼎談など、子どもから大人までが興味を持ち、自ら試し、質問し、学び合う場を提供してきた。このような活動では、参加者が一方的に知識を受け取るのではなく、主体的に考え、他者と共に行動することで、学びの意味を共創することにつながる。長期的な取り組みの成果として、子ども時代に参加した者が成長し、大学生や社会人となって企画・運営側に回る事例も出てきている。これは、学びが世代を超えて循環し、地域に文化として定着している証であると述べた。また、美馬氏はAI 時代の学びにおける課題として、情報が容易に得られる環境だからこそ、予期せぬ出会いやリアルな対話から生まれる発見の価値が増していると指摘。AI が提供する知識や答えは効率的で便利だが、そこには偶発性や人と人の間に芽生える共感が生まれにくい。したがって、今後の学びのデザインでは、意図的に「予測できない出会い」や「共感を伴う対話」を組み込み、学びを人間性に根ざした営みとしてデザインすることが重要になると述べた。最後に、美馬氏は「遊び」は単なる娯楽ではなく、創造性と主体性を育み、人間らしい感情や想像力を呼び覚ます重要な要素であると強調。AI 時代だからこそ、人間性を重視した学びを実現するには、遊びを通じて生まれる体験や感情を学びに取り込むことが不可欠であると締めくくった。

【タリン・カラーヌワット氏 発言要旨】
カラーヌワット氏は、日本古典文学研究から AI 研究への異色の転身について詳細に語った。大学院時代には『源氏物語』などの古典文学を専門とし、博士課程修了後も古典の魅力を多くの人に伝える方法を模索していたが、古典資料は崩し字や歴史的仮名遣いの壁があり、多くの人が読むことを諦めてしまう現状に直面した。そこで彼女は AI の力を活用して、より多くの人が古典に触れられる環境を作ることを決意。その成果の一つが、20 万回以上ダウンロードされた AI 崩し字認識アプリ「みを(miwo)」である。利用者が資料を撮影し、アプリが瞬時に現代日本語へ変換する仕組みは、学術研究者だけでなく、一般の古典愛好者にも広く受け入れられた。さらに、浮世絵の画像生成モデルや、白黒の歴史資料に自動で色を付けるカラー化技術も開発。これらは立命館大学アート・リサーチセンターなどとの共同研究として進められ、過去の文化資産を現代的な表現に置き換えることで、新しい鑑賞体験を創出している。また、江戸時代の古文で応答する AI チャットボット「からまる」も開発。このモデルは江戸期の文献数千冊を学習し、現代語での質問に古文で応答する。例えば「あなたの名前は?」と尋ねると、「それがしが名はからまるにて候」といった具合に返答する。これにより、ユーザーは対話を通じて自然に古文のリズムや語彙に親しむことができる。カラーヌワット氏は、AI は単なる効率化の道具ではなく、文化資産をより身近で魅力的なものに変える「共創者」になり得ると述べた。そして、こうした技術を教育や観光、エンターテインメントなど幅広い分野に応用することで、学びと遊びの境界を越えた新しい文化体験を提供できると結んだ。

【暦本純一氏 発言要旨】
暦本氏は、長年にわたりヒューマンコンピュータインターフェース(HCI)や人間拡張技術の研究に携わってきた経験から、AI時代の学びと遊びの未来像について語った。彼が手掛けた代表的な研究の一つに、スマートフォン登場以前から開発していたマルチタッチ技術がある。これは指の動きや複数接点を感知し、直感的な操作を可能にするもので、今日のスマートデバイス操作の基盤となった。暦本氏は、この発想の原点が楽器「テルミン」にあると紹介。テルミンは電極間の静電容量変化を利用して音を奏でるが、この原理を精密化して応用することで、人間の身体動作をインターフェースに変える研究が生まれたという。さらに彼は、音声を出さずに口の動きだけでAIと通信できる「サイレントスピーチ」技術にも取り組んでいる。これにより公共の場でも周囲を気にせずAIとやり取りができ、将来的にはテレパシーに近い感覚のコミュニケーションも可能になると述べた。一方で暦本氏は、自動化やAI活用が進む中でも、人間が自ら行う行為の価値は失われないと強調。茶道や楽器演奏のように、結果だけでなくプロセスや所作そのものに価値を見出す活動は、AI時代にも重要であるとした。彼の研究室では、大規模言語モデルに視線や動作データを組み合わせ、人間の動作を学習支援や技能伝承に活用する試みも行っている。これらは、身体性を伴う学びをAIが補完し、より深い習得体験を実現するアプローチである。暦本氏は、未来の学びと遊びは、人間の身体とデジタル技術の融合によって拡張されると総括した。

【ヴァン・ディン・ホン・ヴ氏 発言要旨】
ヴ氏は、自身が創業したAI英語学習アプリELSAの開発背景と、その教育的意義について語った。ベトナムで育ち、20年以上英語を学んだものの、米国スタンフォード大学でMBAと教育学修士を取得する過程で、発音や会話力に大きな課題を感じた経験が原点である。この課題を世界中の英語学習者と共有し、AIで解決することを目指してELSAを立ち上げた。ELSAは独自の音声認識技術を搭載し、ユーザーの発音を即時に解析、誤りを特定し、改善のための具体的なフィードバックを提供する。また、様々なアクセントに対応し、実際の会話シーンを想定したロールプレイ機能も備えている。サービス開始から9年で世界5,500万人以上が利用し、日本は最大の市場となっている。ヴ氏は、AIは単に学習効率を上げるだけでなく、学習者の自信を育み、自己表現力を引き出す存在になり得ると強調した。さらに、企業研修や学校教育など組織単位での導入事例を紹介し、言語教育の革新が社会全体のコミュニケーション力向上につながると述べた。

【ディスカッション要旨】
ディスカッションでは、AI時代における学びと遊びの意義、そして両者の境界がどのように変化するのかについて、各登壇者が自身の専門領域や経験を踏まえて深く掘り下げた。美馬氏は、市民科学活動を通じて得た経験から、偶発的な出会いや予期しない体験が学びの質を高めると述べ、教育デザインに「偶然性」を組み込む必要性を説いた。カラーヌワット氏は、AIと文化資産の融合が新たな学びの場を創出する事例を示し、技術が歴史や伝統の敷居を下げることで、多様な人々の参加を促すと主張した。暦本氏は、身体性を伴う体験の価値を強調し、AIは人間の技能や文化的所作を補完する存在であるべきとした。ヴ氏は、AIによる言語教育が自己表現力や自信を高める事例を紹介し、学びが個人のキャリアや人生全体を変える可能性を指摘した。議論の中では、AIが学びを効率化する一方で、遊びが持つ創造性や情緒的価値をどのように守り育てるかという課題も浮上。また、AIの利用が均質化をもたらす危険性に触れ、多様な価値観や文化背景を尊重した学び・遊びのデザインの必要性が共有された。最終的に、AIは学びや遊びの補助ツールにとどまらず、新たな創造の場や文化交流の触媒として活用すべきだという点で一致。この結論は、未来社会における人間の役割と価値を再定義する上で重要な指針となると確認された。

出演者情報

モデレータ

©蜷川実花

落合 陽一

メディアアーティスト

1987年生まれ、2010年頃より作家活動を始める。境界領域における物化や変換、質量への憧憬をモチーフに作品を展開。筑波大学准教授、2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)テーマ事業プロデューサー。

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登壇者

タリン・カラーヌワット

Sakana AI株式会社 リサーチ科学者

カラーヌワット・タリン:Sakana AI株式会社のResearch Scientist。早稲田大学大学院文学研究科博士課程修了。専門は中世の『源氏物語』古注釈。博士号を取得後、ROIS-DS人文学オープンデータ共同利用センターの特任助教、国立情報学研究所の特任研究員、Google Research Brain Team、Google DeepMindのSenior Research Scientistを経て、現職。日本文化と人文科学のデータに適用するAIモデルの研究開発に従事。2022年度、文部科学省、科学技術・学術政策研究所により「ナイスステップな研究者2022」の10人に選定された。

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暦本純一

東京大学・ソニー・コンピュータサイエンス研究所

情報科学者。ARやマルチタッチの基礎研究を世界に先駆けて行うなど常に時代を先導する研究活動を展開している。Human Augmentation, Human-AI Integrationの研究に従事。日本文化デザイン賞、ACM SIGCHI Academyなどを受賞多数。

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©KO SASAKI

美馬 のゆり

学習科学者、学習環境デザイナー、公立はこだて未来大学・教授

情報工学、認知心理学、教育学における幅広い専門知識を持つ教育者であり、クリエイターであり、創設者である。この知識を活かし、大学や科学館、科学祭といった多様な学習環境をデザインしてきた。近年では、AIリテラシーを育成するための教育資源と学習方法の開発に注力し、教育格差是正を目指すNPOを設立している。また、小中学生から大学生、研究者向けの書籍も執筆している。

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©ELSA

ヴァン・ディン・ホン・ヴ

Elsa Corp 共同創設者&最高経営責任者

ELSAの共同創設者兼最高経営責任者(CEO)。個人や組織の英語コミュニケーションを変革する主要なAI搭載プラットフォーム。スタンフォード大学でMBAと教育学の修士号を取得するためにベトナムを離れた後、ヴは、強いベトナム訛りにより、自分のアイデアが誤解と過小評価に繋がったことを直接体験した。これをきっかけに、英語を母国語としない人のためのソリューションを作り出した。2015年、有名な言語技術者であるザビエル・アンゲラ博士と協力して、ELSA Speakを立ち上げた。ELSAは、フォーブスによってAIを使用して世界を変えるトップ企業の1つとして認められ、世界のトップ5AIアプリにランクされている。5,000万人以上のユーザーを抱えるELSAは、コミュニケーションの障壁を打ち破り続けている。2024 Female Founders 250、Endeavor Outlier、World Economic Forum Technology Pioneerに選出される。

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学びと遊び ウィーク

AI時代の学び・遊びのあり方

本プログラムは、テーマウィーク全体協賛者と連携して博覧会協会が企画・実施する「アジェンダ2025」の一つです。「AI時代の学び・遊びはどのようなものになるのか」というセントラルクエスチョンを中心に、トークセッションが展開されます。

  • 20250728日(月)

    10:0012:00

    (開場 09:30)

  • テーマウィークスタジオ
  • ※プログラム開催時間・内容は掲載時点の予定となります。変更については、当WEBサイトや入場券予約システム等で随時お知らせしてまいります。
  • ※プログラムの性質上、実施主催者の都合等に因り、ご案内時刻等が変動する可能性があります。

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