EXPO2025 Theme Weeks

ハイライト

00:04:04 セッション1:学びへの公平なアクセス (鈴木寛、内田由紀子氏、アンドレアス・シュライヒャー、クリスティン・チョイ)

01:01:09 セッション2:AI時代における最適な学びの形とはなにか(パトリック・ニュウエル、藤堂栄子、星友啓、西野真由美)

プログラム内容

*字幕:YouTube動画の右下「歯車」マークの「字幕」よりお選び下さい。(複数言語、音声が重なる際等、字幕が掲出されない場合があります)

「学びへの公平なアクセス」の課題は、これまで主に発展途上国における識字率の向上や基礎的な学力の確保に焦点が当てられてきました。学校建設や教員の確保、教員の資質向上といった施策を通じ、初等教育の機会拡充がODA(政府開発援助)を活用して進められてきました。
しかし近年では、こうした課題は初等・中等教育の機会がすでに整備されたはずの先進国でも、改めて重要性を増しています。特に新型コロナウイルス感染症の流行以降、中学生を中心に不登校の割合が急増しており、その傾向に明確な改善の兆しは見られていません。
同時に、DX(デジタルトランスフォーメーション)やAIの導入により、教育環境は大きく変化しており、「毎日学校に通うこと」が依然として教育政策の基本目標であり続けるべきかどうか、議論が生まれています。これに伴い、「学校に通うこと」の意義や、慢性的に登校できない子どもたちにとっての「学ぶ権利」の保障のあり方についても、改めて問い直す必要が生じています。
DXの基盤や技術の進展によって、学校への復帰以外の新たな解決策も現実味を帯びてきました。こうした状況を踏まえ、多様な子どもたち一人ひとりの事情に寄り添いながら、現代における教育の目的や意義を再定義し、「学びへの公平なアクセス」をどのように保障していくかについて、議論を深めていくことが求められています。(鈴木 寛)
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未来の世代の視点を踏まえ、すべての人のウェルビーイングを高める文化を育むには?
テクノロジーが進化する今、私たちはどのように「未来に備えた教育文化」を築くべきでしょうか?
このパネルディスカッションでは、「インクルージョン(包摂)」「科学的根拠」「人間中心のデザイン」を土台に据えた、次世代の教育のあり方を探ります。
AI、VR、ラーニングアナリティクスといった革新的技術は、教育の可能性を広げた一方で、発展途上国における教育格差や、ニューロダイバージェント(神経多様性のある)学生への支援不足といった課題も浮き彫りにしました。
本パネルでは、「テクノロジー主導」から「使命感に基づく学び中心」のモデルへと転換する道筋を探ります。個々のニーズに応える科学的アプローチとして、AIを活用した個別最適化学習、多感覚的な学習戦略、すべての学習者を力づける教育プログラムなどを紹介します。
また、ピア(仲間)コミュニティの構築、意識啓発活動、オンラインのウェルビーイングセンターへのアクセス支援といった具体的な取り組み例もご紹介。
さらに、子どもたちが不確実な未来を生き抜くために、私たちの学校教育をどのように変革していくべきかを議論します。
違いを尊重し、学びがパーソナライズされ、すべての子どもたちが輝ける未来を、一緒に描きませんか?
皆様のご参加をお待ちしています。(パトリック・ニュウエル)

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実施レポート

【プログラム要旨】
本セッションは、経済的、社会的、文化的背景に関わらず、すべての人々が質の高い学びへ公平にアクセスできる社会の実現を目指し、国内外の教育関係者が議論を交わした。議題は、開発途上国における教育資源不足、先進国における不登校や学びの機会格差、デジタル技術やAIがもたらす新たな可能性と課題など多岐にわたった。パネリストらは、それぞれの地域や専門分野から得られた知見をもとに、公平なアクセスを実現するための政策、教育現場での実践、社会全体の価値観や制度設計のあり方について提案した。

【鈴木寛氏 発言要旨(前半)】
鈴木寛氏は、本セッションの冒頭において「学びへの公平なアクセス」が先進国・開発途上国を問わず、現代社会が直面する最も重要かつ緊急性の高い課題の一つであると強調した。特に開発途上国では、財政・人的資源の不足が深刻であり、教育の質や機会が地域ごとに大きく異なる現状が続いていると指摘。こうした格差を是正するためには、ODA(政府開発援助)の拡充やユネスコ、ユニセフ、世界銀行、GPE(教育のためのグローバル・パートナーシップ)など国際機関との戦略的連携が不可欠であると述べた。一方で、先進国においても公平な学びの実現は未達であり、特に新型コロナウイルスのパンデミック以降、不登校や中途退学の増加が顕著となっていると報告。日本では中学3年生の約10%が長期欠席の状態にあり、その背景には精神的健康問題や学習意欲の低下、対人関係のストレスなどが複合的に関与していると分析した。また、従来の学校制度は産業社会において規律正しい労働者や事務職員を育成するために設計されたものであり、多様化した現代社会の生き方や価値観とは必ずしも合致しないと指摘。AIやオンライン教育の普及により、時間や場所に縛られない学びが可能となったが、その恩恵を受けられるのは自律的学習能力や家庭環境が整った層に偏りやすいと警鐘を鳴らした。学びの公平性を高めるためには、学力向上のみならず、創造性、協働性、批判的思考力など「生きる力」を育成する必要があると述べ、さらに言語や障害、文化的背景、社会的孤立といった多様な障壁に包括的に対応できる教育制度の再設計が求められると強調。最後に、教育機会の平等化は国際社会の連帯的な取り組みと、地域・家庭・学校が相互に支え合う多層的な支援体制の構築によってのみ実現可能であると結んだ。

【内田由紀子氏 発言要旨】
内田氏は、文化心理学の観点から「相互依存的ウェルビーイング」という概念を提示し、教育における包摂性の重要性を強調した。従来の幸福論は、個人の自由、自己実現、競争や達成を通じた自己価値の向上を中心に据えてきたが、こうしたモデルでは社会全体の幸福は保証されないと述べた。内田氏は、個人の成長と社会の幸福を両立させるためには、個人間のつながりや相互支援を重視する相互依存的ウェルビーイングが必要であると主張。これは心理的充実だけでなく、他者や社会への貢献感、共同体全体の健全性を含む広い概念であり、学校・家庭・地域社会が相互に支え合う循環を形成することを目指す。具体的には、学校や家庭以外にも安心して過ごせる「第三の居場所」を提供することで、孤立感を抱える子どもたちの心の安定を図ることができると述べた。また、教師や学校職員の幸福感が児童生徒の幸福感や学習意欲に直結するとの調査結果を示し、教育は単なる学力育成の場ではなく、幸福形成の基盤であると強調した。さらに、文化や価値観の多様性を尊重する教育環境の重要性を説き、多様な背景を持つ子どもたちが互いに学び合い、支え合える場の創出が必要であると述べた。最終的に、相互依存的ウェルビーイングの理念は、教育の質向上と公平性確保の両面から、持続可能で包摂的な社会の基盤となると結んだ。

【アンドレアス・シュライヒャー氏 発言要旨】
シュライヒャー氏は、OECDの教育調査データを基に、AIや気候変動などの社会変革が加速する現代において、教育の質と公平性を同時に高める必要性を詳細に論じた。彼はまず、新型コロナウイルスのパンデミックが教育システムの脆弱性を浮き彫りにしたと指摘。今後は気候変動やAI技術の進展が、パンデミック以上に教育や社会に大きな変化をもたらすだろうと述べた。特に、AIが得意とする知識処理や自動化の領域では人間との差が縮まりつつあり、これからの教育は人間ならではの創造性や批判的思考、社会的スキルを重点的に育成する必要があると強調した。さらにOECDのPISAデータを分析し、日本の学力は世界最高水準である一方、15歳の幸福感や自己効力感が国際的に低い傾向にあることを指摘。学力と幸福感の両立はデンマークのような事例で可能であり、認知・社会・情動のバランスを重視する教育が必要であるとした。また、テクノロジーの活用においては、教師の意図的かつ構造的な利用が学習成果を高める一方、無秩序な利用は学力低下や精神的健康の悪化を招く危険があると述べた。彼はさらに、学習時間の長さではなく質こそが成果を左右し、教師と生徒の信頼関係が不安の軽減や学習意欲向上に不可欠であると強調。最後に、教育は過去の知識の伝達ではなく、変化し続ける未来に対応できる人材育成の場であるべきだと結論づけた。

【クリスティン・チョイ氏 発言要旨】
チョイ氏は、香港における教育の公平性確保に向けた包括的な取り組みについて、制度的枠組みから現場レベルでの実践まで幅広く紹介した。香港では教育を都市の発展を支える基盤と位置づけており、過去10年間で教育予算を36%増額し、政府支出全体の17%以上を教育に充てている。この大規模な投資によって、経済的・社会的背景にかかわらずすべての子どもに12年間の無償教育が保障されるようになった。
その成果の一例として、国際学力調査PISA 2022において香港は世界第2位の「教育の公平性」を達成している。これは、学力に与える家庭の経済状況や社会的背景の影響が極めて小さいことを示すものである。具体的施策として、移民背景を持つ非中国語話者や特別支援を必要とする児童生徒に対して、追加の教育資源や専門教員を配置するなど個別支援を強化している点が挙げられる。
さらに、高等教育進学における公正性を確保するために「香港中学文憑試験(HKDSE)」を導入し、家庭の所得や学校種別による格差を是正した。また、学術系と職業系の教育ルートを統合的に推進し、生徒に柔軟な進路選択を保障している。初等教育段階では、2017年に「幼稚園教育スキーム」を開始し、約90%の半日制幼稚園を無償化したことで、早期教育におけるアクセス格差を大幅に縮小させた。
一方で、近年は若者のストレスや孤立感の増大が課題となっていることを踏まえ、学校教育の中に「4Rメンタルヘルス憲章」を導入し、休養(Rest)、リラックス(Relaxation)、回復力(Resilience)、人間関係(Relationships)を育む活動を推進している。また、教員自身のウェルビーイング向上にも注力していることを強調した。
ICTの活用についても積極的であり、オンライン教材やデジタル教育資源を整備することで、遠隔地や社会的に不利な立場にある家庭の子どもたちにも学習機会を拡大している。最後にチョイ氏は、教育とは単なる知識伝達にとどまらず、持続可能な社会の発展と市民の幸福を支える「公共財」であるとの信念を強調して発言を締めくくった。

【ディスカッション要旨(前半)】
前半のディスカッションでは、モデレーターの鈴木寛氏が議論をリードし、内田由紀子氏、アンドレアス・シュライヒャー氏、クリスティン・チョイ氏がそれぞれの専門的立場から学びへの公平なアクセスに関する課題と可能性を深掘りした。議論は、開発途上国における教育資源不足や先進国で増加する不登校問題、AIやデジタル技術を活用した教育改革、さらには精神的健康の保護といった、多岐にわたるテーマを含んでいた。内田氏は、日本社会における「相互依存的ウェルビーイング」の視点から、学びの場における関係性と包摂性の重要性を強調。特に、家庭や学校以外に子どもが安心して過ごせる「第三の居場所」の必要性を提案し、学びを社会全体で支える構造が求められると述べた。シュライヒャー氏はOECDの国際比較データを提示し、学力の高さと幸福感の両立は可能であり、その鍵は教師の支援的態度にあると説明。生徒が失敗を恐れず挑戦できる環境を整えることで、学習成果だけでなく心理的安定も高まることを具体例と共に示した。一方、チョイ氏は香港の教育制度における取り組みを紹介し、多言語環境や特別支援教育の実践事例を共有。特に、言語や文化的背景が異なる生徒に対する多層的サポートや、早期介入の重要性を述べ、多様性を尊重する教育設計が学びの公平性に直結することを強調した。全体として、制度設計と現場実践の両輪での改革が不可欠であるとの共通認識が形成され、国際的な知見の共有と地域社会の特性を踏まえた柔軟な制度運用が鍵であると結論づけられた。

【パトリック・ニュウエル氏 発言要旨(後半)】
ニュウエル氏は、AI時代における教育のあり方について、人間性とテクノロジーの融合という観点から深く掘り下げた。彼はまず、これまでの産業革命が主に物理的労働や情報処理の効率化を中心に進展してきたのに対し、AI革命は人間の知的活動の領域に直接影響を与える点で質的に異なると指摘。この時代において教育が果たすべき役割は、単に情報や技能を伝達することではなく、人間ならではの創造性、倫理観、共感力、批判的思考を育むことだと強調した。その上で、AIの計算能力や記憶力、データ分析力を人間の感性や価値観と組み合わせることで、これまでにない学びの可能性が広がると述べた。ニュウエル氏は「AI=Artificial Intelligence」に加え、「AI=愛(Love)」という視点を提案し、教育には人間的なつながりや感情の共有が不可欠であると訴えた。OECDや世界経済フォーラムの分析を引用し、未来の社会で必要とされるスキルは、技術的スキル(Technology Skills)、認知スキル(Cognitive Skills)、非認知スキル(Non-Cognitive Skills)の3つのバランスであると説明。また、AIを活用した個別最適化学習(Personalized Learning)の可能性についても詳述。AIパーソナルチューターを活用することで、生徒一人ひとりの進度や理解度に応じた学習支援が可能となり、従来の一斉授業では対応しきれなかった多様なニーズに応えられると述べた。ただし、技術活用には倫理的枠組みの構築が不可欠であり、個人情報保護、学習データの公平な利用、バイアス排除のための透明性確保などが課題として残ることも指摘した。さらに、AI教育環境の普及に伴い、学びの格差が拡大する可能性への警鐘を鳴らし、技術導入と並行して、社会的包摂を進める政策や制度の整備が不可欠であると強調。最後に彼は、AIは人間を置き換えるものではなく、人間の可能性を拡張するパートナーであるべきだとし、教育の使命はその共創関係を築き、未来社会において全ての人が自らの能力を最大限発揮できる環境を整えることだと結んだ。

【藤堂栄子氏 発言要旨】
藤堂氏は、日本におけるディスレクシア(読み書き障害)支援の現状と課題について、自らの活動経験を交えながら詳細に語った。ディスレクシアは知的能力に問題がないにもかかわらず、文字の読み書きに困難を抱える学習障害であり、海外では広く知られているが、日本では依然として理解や支援が十分とは言えないと指摘した。特に、日本の学校教育は画一的な評価や一斉授業に依存しており、多様な学びのニーズを持つ子どもたちが不利な立場に置かれる傾向があると述べた。その中で、ICTやAI技術の発展はディスレクシアを含む学習障害のある児童・生徒にとって大きな可能性を秘めていると強調。音声読み上げ機能や音声入力、デジタル教科書、マルチメディア教材などは、子どもたちが自分のペースで学び、自立的に学習を進めることを可能にする。しかし、これらの技術が真に効果を発揮するためには、制度面の整備と人的支援の両輪が不可欠であり、現場の教員が適切に活用できる研修やサポート体制の構築が急務だと述べた。また、藤堂氏は教材や評価方法のユニバーサルデザイン化の必要性にも言及。まず、読み書きの流暢性と正確性のアセスメントをした上で困難さの程度に準じて時間延長や読み上げなど変更や調整をしたり、口頭試験などを用いて評価をすることが重要であると説明した。さらに、家庭や地域社会との連携も欠かせず、保護者への啓発活動や理解促進が子どもの学びの継続と自己肯定感の向上に直結すると強調。自身が代表を務める認定NPO法人エッジでは、ディスレクシアのある子どもとその家族への相談支援、教材提供、啓発イベントなどを行い、社会全体で支える文化を育んでいると紹介した。最後に藤堂氏は、学びへの公平なアクセスは単に学費無償化や施設整備だけでは達成されず、一人ひとりの特性に応じた支援の仕組みが必要であると述べ、すべての子どもが自らの可能性を最大限に発揮できる社会を目指すと結んだ。

【星友啓氏 発言要旨】
星氏は、グローバル教育の現場に立つ立場から、学びへの公平なアクセスを確保するために必要な条件と課題について多面的に語った。スタンフォードオンライン高校の校長として、彼は世界中の多様な背景を持つ生徒たちと接しており、その経験から、教育の質と機会の公平性は単に制度や資源の問題だけではなく、学習者一人ひとりの主体性と動機づけに深く関わると述べた。星氏はまず、オンライン教育の最大の強みは地理的制約を超えて教育資源を提供できる点にあると強調。地方や海外に住む学生、身体的な制約を持つ学生でも、優れた教育を受けられる環境を整えられる一方で、ネットワーク環境や端末の有無などデジタルデバイドの問題が依然として存在し、それが教育格差の新たな形となっていると指摘した。また、オンライン学習では学習者の自己管理能力が特に重要であり、自己調整力や時間管理能力を育成する支援が不可欠であると述べた。加えて、オンライン教育は孤立感を招きやすく、メンタルヘルスの観点からもコミュニティ形成や人間関係構築の仕組みが必要であると指摘。そのため、スタンフォードオンライン高校では、バーチャル空間での協働プロジェクトやディスカッションの場を多く設け、学習者同士が互いに刺激し合い、学びを共有できる環境を整えていると紹介した。星氏はまた、AIや先端テクノロジーの活用についても言及。AIは学習者ごとの進度や理解度に応じた個別最適化を可能にする一方で、その設計や運用において人間の価値観や倫理観を反映させることが不可欠だと述べた。教育における公平性とは、単に同じ教材や授業を提供することではなく、異なる背景やニーズを持つ学習者がそれぞれの可能性を最大限発揮できるよう、柔軟かつ多様な支援を行うことで初めて達成されると強調した。

【西野真由美氏 発言要旨】
西野氏は、家庭科教育を専門とする立場から、学びへの公平なアクセスを「生活力の育成」という観点で論じた。彼女はまず、家庭科教育が単なる調理や裁縫の授業ではなく、生活全般に関わる知識と技術を総合的に学ぶ重要な機会であることを強調した。この科目を通じて、生徒は衣食住、消費、環境、福祉など幅広い分野に触れ、持続可能な暮らしや健康的な生活習慣を身につけることができる。しかし現状では、地域や学校によって授業内容や時間数に格差があり、すべての子どもが等しく生活力を身につけられているとは言い難いと指摘した。特に経済的に困難な家庭環境にある生徒や、家庭で生活スキルを学ぶ機会が乏しい生徒ほど、学校での家庭科教育の重要性は高いと述べた。西野氏はまた、近年の社会変化として、共働き世帯の増加、核家族化、地域コミュニティの希薄化により、子どもたちが日常生活の中で基本的な家事や生活習慣を学ぶ場が減少していることを挙げた。このような背景から、家庭科は「誰もが公平に生きる力を学べる場」として再評価されるべきであり、単なる技能習得にとどまらず、自立心や他者との協働力を育む教育であると強調した。さらに、家庭科教育の場でもICTやデジタル教材の活用が進んでおり、オンライン動画やシミュレーションを用いた調理実習、アプリを活用した家計管理の学習など、デジタル技術が生徒の理解を深める可能性を示した。しかし同時に、端末や通信環境が整っていない生徒が取り残される「デジタル格差」への対応が不可欠であると述べた。また、西野氏は多文化共生の視点にも触れ、家庭科を通じて異文化の食や生活習慣を学ぶことで、多様性への理解と尊重が育まれると説明。これは国際社会で活躍するための基礎力にもなるとした。最後に、西野氏は、学びへの公平なアクセスの確保は知識の平等な提供だけでなく、それを活用できる力、すなわち「生きる力」をすべての人が身につけられる仕組みづくりであるとし、家庭科教育の充実がその重要な柱の一つであると結んだ。

【ディスカッション要旨(後半)】
後半のディスカッションでは、モデレーターのパトリック・ニュウエル氏が、AI時代における最適な学びの形とは何か、という問いを投げかけ、議論を展開した。藤堂栄子氏はディスレクシア支援の現場経験から、ユニバーサルデザイン教育の重要性と、音声読み上げや自動翻訳などAI教材の可能性について詳細に説明。特に、個々の学習特性に応じた教材設計と、それを使いこなすための教員研修の必要性を訴えた。星友啓氏はオンライン教育の実践例を挙げ、単にデジタル環境を整えるだけでは不十分で、学習者が自律的に学べるスキルや、家庭による学習支援が不可欠であると指摘。また、孤立感を軽減するためにコミュニティ形成が重要であり、AIはその補完的役割を果たせると述べた。西野真由美氏は家庭科教育の視点から、生活スキルが学びの公平性や社会参加の基盤であると説明し、特に経済的・家庭的背景による格差を埋めるための生活教育の強化を提案した。議論はさらに、AIと人間の協働の在り方、教育現場での愛情や人間的つながりの重要性、そして教育格差是正のための多層的支援の必要性へと広がった。具体的方策としては、教員のリスキリングを含む研修制度の整備、地域コミュニティとの連携強化、学習者が自由に選択できる柔軟な学習環境の構築などが挙げられ、最終的に「人間性」と「テクノロジー」のバランスを取った未来志向の教育モデルが目指されるべきだとの結論が共有された。

出演者情報

モデレータ

鈴木 寛

東京大学教授 慶応義塾大学特任教授 前文部科学大臣補佐官

東京大学教授  慶応義塾大学特任教授 前文部科学大臣補佐官
1986年東京大学法学部卒、通商産業省入省、慶應義塾大学SFC助教授を経て、2001年参議院議員に当選、文部科学副大臣を2期務め、「コンクリートから人へ」の予算構造改革を断行。2014年東大・慶大教授(日本初の国立・私立大クロスアポイントメント)に就任し、教育政策の研究・教育を行う。通産省より山口県に出向した際、訪れた松下村塾に感銘を受け、学生・社会人を対象とした「すずかんゼミ」を立ち上げる。「すずかんゼミ」からは、現在までにITベンチャー、医療ベンチャー、教育、中央・地方官庁など様々な分野で活躍中の人材を数多く輩出。現代の松下村塾と言われている。

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パトリック・ニュウエル

TEDxTokyo 共同設立者、大学院大学至善館 教授、社会起業家

ニュウエル教授は、教育、デザイン、戦略、テクノロジー、ブランディング、そしてグローバル・コミュニケーションの分野に幅広い専門性を持つ。彼は日本の大手企業や教育機関と協力し、未来に向けた革新的な環境や戦略を開発している。

大学院大学至善館の教授であり、また、コクヨ株式会社、自由ヶ丘学園高等学校、日本の教育委員会のアドバイザー、OECDの「社会的・情動的スキル調査(SSES)」の日本国内プロジェクトマネージャーを務めている。

東京インターナショナルスクール、TEDxTokyo、NPO法人リビングドリームス、21Foundationの共同設立者である。

著書には、『日本が「世界一」を守り抜く戦略』(光文社、2019年)、『未来を生き抜くスキルはこう育てる』(小学館、2015年)、『TEDパワー 世界と自分を変えるアイデア』(朝日新聞出版、2014年)がある。

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登壇者

内田 由紀子

京都大学 人と社会の未来研究院 院長・教授

京都大学教育学部卒。同大学院人間・環境学研究科修了。博士(人間・環境学)。
ミシガン大学・スタンフォード大学客員研究員、甲子園大学講師、京都大学こころの未来研究センター助教、准教授、教授、スタンフォード大学フェロー等を経て、2023年より京都大学人と社会の未来研究院院長。文化とウェルビーイングに関する文化心理学研究を行っており、国際誌での学術研究発表多数。中央教育審議会など社会実装にも従事し、京都市特別顧問も務めている。国際学術誌の編集委員や学会(APS)の理事として、国際的にも活動している。主著に『これからの幸福について:文化的幸福観のすすめ』(新曜社)。

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©OECD

アンドレアス・シュライヒャー

OECD Education and Skillsディレクター

アンドレアス・シュライヒャーは、OECDの教育・技能担当ディレクターである。国際学生評価プログラム(PISA)やその他の国際文書を開始し、監督し、国や文化を超えた政策立案者、研究者、教育者が教育政策と実践を革新し、変革するためのグローバルプラットフォームを作成した。
20年以上にわたり、教育を改善するために大臣や教育リーダーと協力してきた。元米国教育長官のアルネ・ダンカンは、シュライヒャーは「私が会った誰よりも、地球規模の問題や課題を理解しており、真実を語ってくれる」と述べた。元英国国務長官のマイケル・ゴーヴは、シュライヒャーを「英語教育で最も重要な人物」と呼んだ。
ドイツ連邦共和国の初代大統領の名において「模範的な民主的関与」に対して授与される「テオドール・ホイス」賞を含む、数多くの栄誉と賞を受賞。 ハイデルベルク大学で名誉教授を務めている。

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クリスティン・チョイ博士

香港特別行政区政府教育長官

2017年から教育次官を務め、2022年に香港特別行政区政府教育長官に就任。政府入省以前は、教育分野で30年近く勤務。1988年から10年以上中学校で教鞭をとった後、教育局に入局し、学校単位のカリキュラム開発と言語教育支援を担当した。2013年、中等教育学校の校長に就任。その間、Hong Kong Teachers Dream Fundの設立など、社会・教育活動に参加。また、基本法推進運営委員会、犯罪撲滅委員会、青少年委員会の委員も務めた。

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藤堂 栄子

認定NPO法人エッジ 会長

慶應義塾大学法学部政治学科卒。星槎大学大学院教育研究科修士課程修了。法学士、教育学修士。
ディスレクシアの研究者・支援者・保護者・当事者・活動家。
1999年、息子が留学先イギリスでディスレクシアだと判明したのをきっかけに日本でのディスレクシアの支援、啓発のため、2001年NPO法人エッジを設立。以降読み書きのアセスメントや音声教材他、数々の支援ツールと支援者の養成コースを開発し提供。
アジア太平洋ディスレクシアフォーラムを主宰(2016‐2021)
日本発達障害ネットワークの理事、副理事、文部科学省特別支援ネットワーク推進委員会の他、発達障害者支援法、障害者差別解消法、読書バリアフリー法などの制定にも関わり、内閣府や文部科学省、経済産業省、国土交通省、厚生労働省などの関係委員
ディスレクシアでも大丈夫!(ブドウ社2009)
ディスレクシアだから大丈夫!(金子書房2021)他

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星 友啓

Stanfordオンライン高校校長、哲学博士、Education; EdTechコンサルタント

1977年東京生まれ。2001年 東京大学文学部思想文化学科哲学専修課程卒業。2002年より渡米、Texas A&M大学哲学修士修了。2008年、スタンフォード大学哲学博士修了後、同大学哲学部講師として論理学で教鞭をとりながら、スタンフォード・オンラインハイスクールスタートアッププロジェクトに参加。2016年より校長に就任。

現職の傍ら、哲学、論理学、リーダーシップの講義活動や、米国、アジアに向けて教育及び教育関連テクノロジー(EdTech)のコンサルティングにも取り組む。
日本では慶應義塾大学特別招聘教授、横浜市立大学特任教授を務めている。

著書に『スタンフォード式 生き抜く力』(ダイヤモンド社)、『脳科学が明かした!結果が出る最強の勉強法』(光文社)、『脳を活かす英会話』『全米トップ校が教える自己肯定感の育て方』、『脳を活かすスマホ術』(いずれも朝日新聞出版)、『子どもの「考える力を伸ばす」教科書』(大和書房)、『スタンフォードが中高生に教えていること』『「ダメ子育て」を科学が変える!全米トップ校が親に教える57のこと』(いずれもSBクリエイティブ)、『脳が一生忘れないインプット術』(あさ出版)がある。

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西野 真由美

東京家政大学・教授

お茶の水女子大学文教育学部哲学科卒。同大学院人間文化研究科博士課程単位取得退学。文学修士。
お茶の水女子大学人間文化研究科助手を経て、1989年より国立教育研究所研究員、2001年より国立教育政策研究所(改組による名称変更)総括研究官として、国立教育政策研究所における教育課程に関する諸外国比較研究・国内の先進的実践研究に従事した。2025年4月より東京家政大学教授。専門は道徳教育。文部科学省による道徳教育の教材開発及び学習指導要領改訂の協力者として、道徳教育の改善に取り組んできた。2011年から17年まで、APNME(アジア太平洋道徳教育ネットワーク)の事務局メンバーとして国際的な研究協力に尽力した。現在、日本道徳教育学会副会長。共編著に『「考え、議論する道徳」の指導法と評価』(教育出版)など。

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学びと遊び ウィーク

学びへの公平なアクセス

本プログラムは、テーマウィーク全体協賛者と連携して博覧会協会が企画・実施する「アジェンダ2025」の一つです。「全ての人が公平な学びの機会を得るために何ができるか」というセントラルクエスチョンを中心に、トークセッションが展開されます。

  • 20250728日(月)

    13:3015:30

    (開場 13:00)

  • テーマウィークスタジオ
  • ※プログラム開催時間・内容は掲載時点の予定となります。変更については、当WEBサイトや入場券予約システム等で随時お知らせしてまいります。
  • ※プログラムの性質上、実施主催者の都合等に因り、ご案内時刻等が変動する可能性があります。

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