EXPO2025 Theme Weeks

プログラム内容

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自然環境の破壊から民主主義・資本主義の危機まで、かつてないほどに混迷を極める地球環境において、未来のあり方を考えるとき、私たちがどのような次の一歩を選ぶかが、とても重要な時代に差し掛かっています。「エシカル・リビング」という、衣食住においてのエシカルなライフスタイルのあり方を考える当セッションにおいては、フェアトレードからオーガニック、トレーサビリティまで、新たな扉を次々と開いてきた伝説的なパイオニア・チャレンジャーたちと、エシカル・ファッションの新しい扉を開き続ける活動家とを迎えて、私たちにとって大切な“次の一歩”を考える意見交換の場としたいと考えています。

実施レポート

<プログラム要旨>
このプログラムは気候変動、生物多様性の喪失、社会的不平等など、今日のグローバルな課題に対して、生活者一人ひとりの視点から行動変容を促し、持続可能な社会を築くための「エシカルリビング」の考え方が中心テーマとして議論された。本セッションでは、エシカルリビングが単なる個人のライフスタイル選択ではなく、社会全体の構造変革と深く関係していることが明確になった。登壇者の多様な実践や研究に触れる中で、倫理的な消費や暮らしの選択が新たな社会的価値を創出し得ること、そしてそれを持続的に支える制度設計や教育の重要性が再確認された。今後、異なる立場や文化的背景をもつ人々が共創的にエシカルリビングを深化させるためには、共通のビジョンと対話の継続が不可欠であると発信された。

<登壇者発言要旨 生駒 芳子氏>
ファッションジャーナリストとして長年エシカルファッションとサステナブルなライフスタイルの普及に尽力してきた生駒芳子氏は、本セッションの冒頭にて、現在の地球規模の課題に立ち向かうためには「日常の倫理的選択」が社会を変える力になると述べた。彼女は、気候変動、生物多様性の喪失、労働搾取など、サプライチェーン全体にひもづく課題に言及しつつ、「自らの暮らしを問い直し、社会に優しい選択を日常に組み込むことが重要」と力を込めた。特に、ファッション産業が世界で最も環境負荷が高く、搾取構造も多い分野の一つであることを指摘し、そのような業界に対して消費者が倫理的に関与していくことのインパクトを強調した。また、「エシカル」とは単なるトレンドではなく、人や自然との関係性を再構築する根本的な哲学であり、社会の制度設計にも関わる深い視座が求められると述べた。生駒氏はまた、若い世代の間に広がりつつあるオルタナティブな価値観や、地域に根差した循環型経済の事例を紹介しながら、「未来のスタンダード」を共に育てていくことの必要性を提起した。最後に彼女は、「エシカルリビングは不自由になることではなく、より豊かで意味ある暮らし方への転換である」と語り、多様な立場を超えた共創の場としてEXPO2025の意義を強調した。

<登壇者発言要旨 サフィア・ミニー氏>
社会起業家でありREAL Sustainability CICの創設者でもあるサフィア・ミニー氏は、長年にわたりフェアトレードとエシカルファッションを推進してきた立場から、倫理的な消費がもたらす社会変革の可能性について熱く語った。彼女は、ファッション業界における児童労働や搾取構造に警鐘を鳴らし、特に「Slave to Fashion」キャンペーンを通じて、消費者が無意識のうちに加担している構造的暴力を可視化してきたことを紹介。「私たちが選ぶ洋服一着一着が、誰かの人生を左右している」と語り、消費行動に伴う責任の重さを訴えた。また、サステナブルな生産と消費のためには、企業と消費者双方の意識改革が必要であると強調。特にグローバルブランドに対しては、トレーサビリティと透明性の徹底を求め、サプライチェーン全体での倫理的基準の適用を主張した。さらに、彼女は若年層の間で広がる「気候正義」や「エシカル消費」のムーブメントが、すでに制度や政策の転換を促している事例を引き合いに出し、希望を持って行動することの力を強調。「ただ批判するのではなく、代替となる選択肢を提示し、人々に変化を促す語り口を持つことが重要だ」と述べ、ストーリーテリングの有効性も指摘した。最後に、未来世代への責任を果たすために、教育・ビジネス・政策が連携し、「倫理を基盤とした経済モデル」へと進化する必要があると語り、万博をその起点とする強い意志を示した。

<登壇者発言要旨 ゴードン・レヌーフ氏>
Good On Youの共同創業者であるゴードン・レヌーフ氏は、消費者が持続可能で倫理的な選択をするための情報提供の重要性について語った。彼は、エシカルな意思決定を支援する評価基準とデータに基づいたプラットフォームを構築した経験から、サステナブルな社会を実現するには「選ぶ力」と「選べる環境」の両方が不可欠であると強調した。Good On Youでは、ファッションブランドの環境影響、労働者の権利、動物福祉などに関する透明性を独自に評価し、消費者にわかりやすいスコアを提供している。彼は、こうした評価の背後には膨大な調査と基準設計があり、その信頼性と公平性を維持するためには、業界全体の協力と継続的なアップデートが必要だと述べた。また、企業側もこのような評価を前向きに受け入れ、自社の改善点を明確にするツールとして活用している事例が増えているという。レヌーフ氏は、情報の非対称性が消費者の無力感や無関心を生み出す要因であると指摘し、誰もがアクセス可能なかたちで情報を開示することが信頼の構築につながると語った。さらに、アジア太平洋地域など多様な文化圏における「持続可能性」の概念の差異にも触れ、評価基準の設計にはローカルな文脈や文化的背景を尊重する姿勢が欠かせないと述べた。最後に彼は、「私たちは消費という行為を通じて、日々の世界のあり方に投票している」と述べ、情報リテラシーとエシカルな判断力の普及こそが、未来のよりよい経済と社会を築く鍵であると力強く締めくくった。

<登壇者発言要旨 サリー・V・フォックス氏>
オーガニックコットンの育種家であり、1970年代から持続可能な繊維の普及に尽力してきたサリー・V・フォックス氏は、農業と衣服の未来をつなぐ視点から講演を行った。彼女はまず、従来の農業が土壌を劣化させ、生態系を破壊してきたことを指摘し、代替としての有機農法の重要性を説いた。特に、色付きの天然コットン「カラードコットン」の育種に関する長年の研究を紹介し、それが染色工程における化学物質の使用を削減し、環境負荷の大幅な低減に寄与している点を強調した。フォックス氏は、繊維産業においても土壌と気候変動が直結することを認識すべきであり、農から始まるサプライチェーンの再設計が必要だと訴えた。また、彼女は科学と自然の知恵を融合させることの意義を述べ、何世代にもわたる農家や職人との協働によって、継承と革新のバランスを保ちつつサステナブルな素材開発を進めていることを紹介した。「土に良いことは、私たちの身体にも良い」と語り、エシカルリビングを語るうえで「土壌の健康」が根本にあるという視座を提示したことは、参加者にとって印象深かった。さらに、気候変動に対応するための「カーボンポジティブ」な農業の可能性にも触れ、農業が環境破壊の原因ではなく、解決策となり得ることを示唆した。講演の最後に、フォックス氏は「持続可能性とは自然のサイクルに耳を傾け、それと調和して暮らすことだ」と語り、万博がそうした共感を世界中に広げる場となることへの期待を寄せた。

<登壇者発言要旨 鎌田 安里紗氏>
一般社団法人 unisteps の共同代表理事であり、自身もファッションモデルとしてのキャリアをもつ鎌田安里紗氏は、個人の経験を通じてサステナブルなライフスタイルと社会活動をつなげる意義について語った。彼女はまず、若い世代が抱える将来不安や社会課題への感度が非常に高まっていることを挙げ、それに対して個人的な疑問や興味が行動の出発点になると述べた。ファッションという身近な領域から社会と関わる方法を模索し、着ること、選ぶこと、伝えることを通じて共感の輪を広げてきた経験を紹介。また、教育現場や自治体と連携して行うワークショップでは、「サステナブル=我慢」ではなく、「サステナブル=創造的な選択肢の発見」というポジティブな価値観を広めることを重視していると述べた。さらに、持続可能性を語るうえでは「関係性」に着目することが大切だとし、人と人、人と自然、現在と未来をつなぐ視点からエシカルリビングを捉えることの意義を強調した。社会的インパクトを可視化する取り組みや、ローカルな文化資源を活用した地域循環型のプロジェクトなど、実践的な事例も紹介され、参加者に強い印象を与えた。

<ディスカッション要旨>
セッション後半のディスカッションでは、登壇者全員がそれぞれの立場から、エシカルリビングの実践と課題、今後の展望について意見を交わした。モデレーターの生駒芳子氏は、「倫理的な暮らしの基盤には“気づき”がある」と述べ、教育の役割とメディアの情報発信の在り方を提起。これに対し、サフィア・ミニー氏は、消費者教育の重要性とともに、制度的な支援がなければエシカルな選択が広がらない現実を指摘した。ゴードン・レヌーフ氏は、情報の透明性が消費者の行動変容に与える影響を再確認し、プラットフォームの役割とアルゴリズム設計の倫理性にも踏み込んだ。鎌田安里紗氏は、「個人の感情や日常の感覚を起点とした活動が、社会を変える原動力になる」と強調。若者の行動が制度や企業に波及していく現象を、エンパワーメントの視点から語った。サリー・V・フォックス氏は、自然との共生や循環型社会の哲学について改めて語り、「倫理とは自然の声を聴くことから始まる」と表現。参加者からは、エシカル製品の価格や入手困難さに関する質問が出され、それに対し登壇者たちは、持続可能性を“長期的なコスト削減”として捉える視点や、コミュニティ主導の流通改革の必要性を提案した。ディスカッションの終盤では、文化や宗教的背景によって倫理の定義が異なるという課題も挙げられ、「多様な正しさ」を前提にしたエシカルの共通基盤づくりの必要性が共有された。全体を通じて、エシカルリビングは単なる「よいことをする」行為ではなく、「どう生きるか」という哲学的・社会的実践であるとの認識が深まり、登壇者たちはEXPO2025がその問いを世界に投げかける出発点になることを願ってセッションを締めくくった。

出演者情報

モデレータ

©︎Art Dynamics

生駒 芳子

ファッションジャーナリスト、アートプロデューサー、伝統工芸開発プロデューサー、株式会社アートダイナミクス代表取締役社長、日本エシカル推進協議会会長

ファッション・アート・伝統工芸を中心とする文化面、エシカル・サステナビリティにおいて、コンサルティング、ディレクション、プロデュース、ブランディングアドバイスを手がける。

VOGUE、ELLEの副編集長を経て2008年より「マリ・クレール」の編集長を務め、独立。ファッション、伝統工芸、アート、デザインから、社会貢献、クール・ジャパンまで、カルチャーとエシカルを軸とした新世代ライフスタイルを提案。地場産業や伝統産業の開発事業に取り組む。
2015年より文化庁日本遺産のプロデューサー、2016年より LEXUS NEW TAKUMI PROJECTのメンター。2018年より、日本の伝統工芸をファッションとアートをベースにしてラグジュアリーに発信するブランド「HIRUME」をプロデュース。2024年より、HIRUME ART LABORATORYにて、伝統工芸×アート×ファッション×デジタルの発信をスタート。
2024年6月に会長を務める日本エシカル推進協議会から、専門家58人の執筆によるエシカル基準の解説書「エシカルバイブル」を出版。

文化庁・文化審議会文化経済部会臨時委員、消費者庁・サステナブルファッションサポーター、経済産業省産業構造審議会繊維小委員会委員、東京都・江戸東京きらり委員、三重テラスクリエイティブディレクター、日本和文化振興プロジェクト理事、シチズンLブランドアドバイザー、有限会社アンダーグラウンド(冨永愛個人事務所)スーパーバイザーなど。武蔵野美術大学及び杉野服飾大学大学院にて講師を務める。

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登壇者

サフィア・ミニー

社会起業家、コンサルタント、アドバイザー

サフィア・ミニー(MBE、FRSA)は、受賞歴のある社会起業家、コンサルタント、アドバイザーである。世界経済フォーラムから優れた社会起業家として認められており、持続可能なファッション、持続可能なサプライチェーン、倫理的なビジネス、気候変動対策に関する主要なインフルエンサーであり、国際的な講演者でもある。ファッション業界における現代の奴隷制を根絶するためのキャンペーンである「Slave to Fashion」、2022年に出版された「Slow Fashion - Aesthetics meets Ethics」、そして2022年の「Regenerative Fashion」など、9冊の本を執筆している。持続可能な生活とリーダーシップに対する意識と行動を促進するために、2019年にREAL Sustainability CICを設立。2022年、REALは、プラネタリーバウンダリー内で運営されるようにファッション業界を再設計するための迅速な行動を促進するためのボトムアップの業界全体の運動であるファッション宣言を立ち上げた。

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ゴードン・レヌーフ

Good On You共同創業者

ゴードン・ルヌーフ氏は、消費者ブランド向けの世界で最も信頼され、使いやすい持続可能性評価システムである Good On You の共同創設者である。Good On You の評価は、持続可能性のパフォーマンスを向上させ、意識の高い買い物客を引き付けるために、世界中の小売業者、ディスカバリー プラットフォーム、ショッピング モールで使用されている。2015 年以来、Good On You はファッションと美容の分野で 6,000 を超えるブランドを評価し、何百万人もの消費者がより持続可能な方法で買い物できるようにしてきた。消費者の権利を 30 年以上擁護しており、その中には Consumers International の理事やオーストラリア消費者連盟の副会長としての経歴がある。その仕事は、持続可能な開発目標 12 に沿って、消費者が持続可能で倫理的な選択を行う権利に焦点を当てている。持続可能な方法で買い物をする人が増えるにつれて、より多くのブランドが倫理と持続可能性をビジネスの中心に置くよう促している。2016年、オーストラリア競争消費者委員会とオーストラリアの大手消費者団体CHOICEの招待を受け、毎年恒例のルビー・ハッチソン講演「消費者はより良い世界を買うことができるか」を行った。講演では、消費者が責任を持って消費する権利と、それに伴う生産者に対する、消費者が関心を持つ問題への影響に関する正確な情報を提供する義務について検討した。2020年、2021年、2022年の徳島国際消費者フォーラムなど、消費者がより持続可能な選択を行えるよう支援する方法について定期的に講演している。オーストラリアを代表するタイプ1環境認証制度であるGood Environmental Choice Australiaの理事長も務め、電気通信業界オンブズマン制度の理事、オーストラリア証券投資制度消費者諮問委員会の議長など、消費者の利益を推進する数多くの役職を歴任した。

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鎌田 安里紗

一般社団法人unisteps共同代表理事

「多様で健康的なファッション産業に」をビジョンに掲げる一般社団法人unistepsの共同代表をつとめ、衣服の生産から廃棄の過程で、自然環境や社会への影響に目を向けることを促す企画を幅広く展開する。ジャパンサステナブルファッションアライアンス事務局、FASHION FRONTIER PROGRAM事務局、FASHION REVOLUTION日本事務局、種から綿を育てて服をつくる「服のたね」など。

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サリー V. フォックス

Vreseis Limited代表、オーガニックコットンブリーダー(1982年~)、所有商標Foxfibre® Colororganic®

繊維そのものに自然な色合いを持ち、染色を必要としないカラードコットン。その美しさに魅了されたサリーは、1980年代後半、大規模な有機栽培に特化したカラードコットンの品種改良を初めて手掛けた。アメリカ南西部での成功により、オーガニック・サステナブルコットンの議論を推進する立役者となった。綿花を機械で加工するには、生産性を担保するために一定水準以上の繊維の長さや強さが求められる。幼少期から手紡ぎや手織りに親しんでいたサリーはその重要性を理解しており、自らの知識経験を生かして品種改良を行った。そうした土台があったため、この特別な綿は市場にうまく受け入れられるようになった。綿販売の収益を利用し、世界中の顧客に商標の使用を提供する一方で、アメリカ国内や世界各国の認証機関と協力し、まずは綿花、次に製品の認証システムを構築した。その後何十年もの間、この産業は発展し、より洗練されたシステムが採用されてきた。しかしこの綿が今もなお生き続けているのは、日本の繊維産業が持つ洗練された技術と芸術性のおかげである。日本の匠たちは世界で最も美しいオーガニックで自然な色を持つ繊維製品を提供し続けてきた最初の、そして唯一無二の存在である。

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食と暮らしの未来 ウィーク

「エシカルリビング」の促進

本プログラムは、テーマウィーク全体協賛者と連携して博覧会協会が企画・実施する「アジェンダ2025」の一つです。「20‐30年後を見据え、人間の暮らしに伴う課題を解決するとともに生活者に新たな選択肢を提供する、"エシカルなライフスタイル"をどのように拡大していけるか」というセントラルクエスチョンを中心に、トークセッションが展開されます。

  • 20250616日(月)

    17:0019:00

    (開場 16:30)

  • テーマウィークスタジオ
  • ※プログラム開催時間・内容は掲載時点の予定となります。変更については、当WEBサイトや入場券予約システム等で随時お知らせしてまいります。
  • ※プログラムの性質上、実施主催者の都合等に因り、ご案内時刻等が変動する可能性があります。

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