食と暮らしの未来 ウィーク
100億人のための健康で持続的な食提供
2025年日本国際博覧会協会
本プログラムは、テーマウィーク全体協賛者と連携して博覧会協会が企画・実施する「アジェンダ2025」の一つです。「どうすれば将来の人口100億人のためにプラネタリー・バウンダリーの中で生産された栄養価が高い食を確保できるか」というセントラルクエスチョンを中心に、トークセッションが展開されます。
映像記録有り
対話プログラム
- その他
同時通訳 | 提供する |
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発信言語 | 日本語及び英語 |
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アジェンダ2025
主催プログラム
- 開催日時
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2025年06月16日(月)
10:00 ~ 12:00
(開場 09:30)
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- 開催場所
- テーマウィークスタジオ
プログラム内容
*字幕:YouTube動画の右下「歯車」マークの「字幕」よりお選び下さい。
(複数言語、音声が重なる際等、字幕が掲出されない場合があります)
100億人を超える世界人口に、地球の限界を超えずに栄養ある食を届けるには? ―
私たちは今、「健康」「公平性」「持続可能性」をすべての人に届けるために、フードシステムを根本から変革するという、かつてない課題に直面しています。
このセッションでは、食料廃棄、栄養不良、慢性疾患の増加、生態系の劣化など、今日の食の危機の根本原因を世界およびアジアの事例からひもときます。そして、持続不可能な生産、不平等なアクセス、不健康な消費パターンがいかに絡み合っているかを明らかにします。
ディスカッションは二部構成で行います。前半では、気候変動、サプライチェーンの混乱、消費者の認識不足など、システムに根付く障壁を探ります。
後半では、再生型農業、食生活の転換、循環型バリューチェーン、政策イノベーション、テクノロジーを活用した消費者巻き込みといった、希望に満ちた解決策に焦点を当てます。ビジネス界、市民社会、科学の第一線で活躍する登壇者たちが、現場からのリアルな知見と、未来を形づくる革新的なアプローチを共有します。
人と地球の両方のために機能するフードシステムの実現に関心があるすべての方にとって、見逃せないセッションです。
実施レポート
<プログラム要旨>
2025年の大阪・関西万博では、テーマウィークの取り組みのもと、グローバルな課題に対する多様なアプローチが提示されている。その中でも、「食と暮らしの未来ウィーク」において開催された「100億人のための健康で持続的な食提供」プログラムは、人口増加・気候変動・栄養格差といった複雑な課題を背景に、持続可能で包括的な食の未来をどのように設計すべきかを多角的に検討する場となった。本セッションでは、国際連合や食品企業、学術機関、市民団体など多様な立場から登壇者が参加し、フードシステム全体の改革、栄養と健康の両立、食のアクセス保障、さらには食文化と倫理の在り方に至るまで、幅広い観点から議論が交わされた。特に注目されたのは、「食」が単なるエネルギー供給手段にとどまらず、人間の尊厳、コミュニティ形成、環境と調和する暮らしの根幹であるという認識の共有であった。
<登壇者発言要旨 エメリン・フェルス氏>
WBCSD(持続可能な開発のための世界経済人会議)にて農業・食品部門のシニアディレクターを務めるエメリン・フェルス氏は、セッションの冒頭において、人口100億人時代における食料システムの未来について問題提起を行った。フェルス氏はまず、現在の世界のフードシステムが環境、社会、経済の各側面において限界に達しつつあり、特に気候変動と栄養格差という二重の危機が顕在化していることを指摘した。そして、「今こそシステム全体を見直し、持続可能性・包摂性・レジリエンスを兼ね備えた新しいモデルを共創すべき時である」と力強く訴えた。また、WBCSDの取り組みとして、グローバル企業による食品バリューチェーンの再設計に向けた連携や、農業生産者、消費者、政府など多様なステークホルダーを巻き込むプラットフォームの重要性を紹介。フェルス氏は「トランスフォーメーション(変革)は一人では成し得ない」とし、協働によるインパクト創出の重要性を強調した。さらに、データと科学に基づいた意思決定の必要性にも言及し、エビデンスに裏打ちされた政策と企業戦略が、食料システム全体の信頼性と透明性を高める鍵であると述べた。持続可能な未来を築くためには、食品の生産・加工・流通・消費のすべての段階で「人間の健康と地球の健康」を同時に考慮する視座が不可欠であるとし、「栄養と環境を切り離さずに語る時代が来ている」と語った。フェルス氏はまた、本セッションを通じて異なる分野の知見が交差し、共通課題に対する新たな連携の可能性が生まれることへの期待を示した。最後に「持続可能な食の未来は、我々一人ひとりの意思と行動にかかっている」と述べ、未来のフードシステムのあり方を共に描く場としての本対話の意義を強調して発言を締めくくった。
<登壇者発言要旨 シャクンタラー・ハラクシン・ティルステッド氏>
CGIARの栄養・健康・食料安全保障プラットフォームを率いるシャクンタラー・ハラクシン・ティルステッド氏は、開発途上国を中心とした栄養改善と持続可能な食料供給の実践に基づく視点から、科学と政策、現場をつなぐ戦略を提起した。ティルステッド氏は、水産資源を活用した栄養供給の重要性を強調し、とりわけ小規模漁業や内水面養殖が、現地の人々の生活と健康を支える基盤であると述べた。特に南アジアやアフリカにおいて、魚は高品質なタンパク源であると同時に、ビタミンやミネラル、脂肪酸などの必須栄養素を多く含むことから、子どもの発育や女性の健康にとって不可欠な存在だという。彼女はまた、これらの資源が適切に評価されていない現状を指摘し、食料政策の中で「魚を中心に据える」視点の欠如が、栄養格差の解消を妨げていると分析した。
さらに、彼女の主導するプロジェクトでは、現地の女性や農民を巻き込みながら、栄養価の高い魚種の繁殖、簡便な調理法の普及、学校給食への導入など、包括的なアプローチを展開している。こうした取り組みは単なる技術支援にとどまらず、ジェンダー平等や教育、地域のレジリエンス向上といった多面的な社会課題の解決にもつながるものであると強調された。またティルステッド氏は、栄養改善は国際的な科学知と地域の伝統的知識の融合によってこそ実現可能であり、「現場から学び、現場に還元する」姿勢が不可欠であると訴えた。彼女は、単一の解決策ではなく、多様性に富んだ食材と食文化を尊重することが、100億人時代における持続可能で公平なフードシステム構築の鍵であると述べた。最後に、世界中の政策立案者、研究者、民間セクター、市民社会が協働し、「栄養を中心に据えたフードシステム改革」に取り組むべきだと力強く提言し、講演を締めくくった。
<登壇者発言要旨 ジョアオ・カンパリ氏>
WWFインターナショナルのグローバルリーダーであるジョアオ・カンパリ氏は、自然と調和した食料システムへの移行の緊急性と可能性について語った。カンパリ氏は冒頭、現在のフードシステムが気候変動、生物多様性の喪失、水資源の枯渇といった環境危機を加速させており、同時に栄養不良や健康格差といった社会問題も深刻化していると指摘した。特に、世界人口が100億人に迫る中で、従来の大量生産・大量消費型のモデルではもはや持続可能ではないことを強調し、「自然に基づいた解決策(Nature-based Solutions)」の導入が急務であると訴えた。WWFとしては、農業生産のあり方そのものを見直し、土地利用の最適化、持続可能な漁業、土壌と水資源の保全、森林伐採ゼロのサプライチェーンといった複合的なアプローチを提唱している。また、企業や政府との連携によって、政策・制度の改革を通じた大規模な構造転換が不可欠であり、「民間セクターの参加はリスクではなく、むしろ解決の鍵である」と述べた。カンパリ氏はさらに、消費者の食行動の変革も重要だと語り、植物中心の食生活、食のロス削減、季節性・地域性を活かした食の選択が、地球にも人間にも良い選択であると提示した。特に教育や情報発信の役割が重要であり、「選べる未来」を保証するためには、正確なデータと透明性の高いガイドラインの整備が必要であると主張した。最後にカンパリ氏は、すでに多くの地域やコミュニティで始まっている草の根の取り組みが希望の光であると述べ、持続可能な食料システムは「未来の世代に対する責任」であると強調。本セッションが、地球環境と人類の健康の両立を目指す国際的な対話の起点となることへの期待を込めて発言を締めくくった。
<登壇者発言要旨 小野 郁氏>
味の素株式会社の執行役でありサステナビリティ推進部の部長を務める小野郁氏は、企業の立場から持続可能で健康的な食の実現に向けた取り組みと展望について語った。同社は「食と健康の課題解決企業」として、長年にわたりアミノサイエンスを軸に、人々の栄養改善と食品ロス削減、環境負荷の低減を目指してきた。小野氏は冒頭、現在のフードシステムが直面する三重苦――栄養不足・生活習慣病の増加・地球環境への負荷――を乗り越えるためには、従来の大量生産・大量消費のパラダイムを転換する必要があると強調した。同社の具体的な取り組みとしては、「栄養の可視化」を通じて、地域ごとの栄養課題に応じた製品開発を進めている点が挙げられた。特にアフリカ・アジア地域においては、微量栄養素不足(いわゆる“隠れ飢餓”)の改善に向け、調味料やインスタント食品に必要な栄養素を配合しながら、味や価格にも配慮する工夫がなされている。また、小野氏は「食のよろこび」と「健康」の両立が不可欠であると述べ、科学的根拠に基づいたおいしさの設計が、食行動の改善を促す鍵になると語った。さらに同社では、食品ロス削減のために製造工程や物流の効率化、賞味期限表示の見直し、消費者教育など多面的なアプローチを導入しており、「持続可能性は経営そのもの」として全社的に取り組んでいる。サステナビリティは一企業の努力では限界があり、官民連携、国際協調、市民参加が不可欠であると述べ、味の素としても国連やNGO、地域パートナーとの連携を通じてより包括的な取り組みを推進していると紹介した。最後に小野氏は、「一杯の食事の中に、未来の地球と人々の健康がつまっている」と述べ、企業が果たすべき社会的責任と希望を込めたメッセージで発言を締めくくった。
<ディスカッション要旨>
セッション後半のディスカッションでは、100億人時代に向けた持続可能なフードシステムの構築に関して、登壇者間で活発な意見交換が行われた。モデレーターのエメリン・フェルス氏は、フードシステムにおける共通の課題として「多様な主体の協働」「消費者の意識変革」「政策の整合性」を提示し、パネリストの考えを促した。ジョアオ・カンパリ氏は、自然に基づいた食料生産の転換には制度改革と金融メカニズムの再設計が不可欠だと述べ、公共政策と民間投資の統合を呼びかけた。小野郁氏は、企業として消費者の食選択を支援する「行動科学にもとづいた製品設計」が重要だと語り、選ばれる商品が自然と持続可能性につながるような工夫を紹介した。ティルステッド氏は、フードシステムを「栄養中心」に再構築する必要性を改めて主張し、水産資源や小規模農家への支援が、食料の量と質の両面から持続可能性を高める鍵であると強調した。また、登壇者全員が「教育」の果たす役割の重要性に言及し、食の現場や学校現場における栄養・環境リテラシーの向上が、将来世代の意識と行動変容につながると一致した。フェルス氏は、持続可能なフードシステムに向けた変革には、現場での実践とグローバルな制度設計の“両輪”が必要だとまとめ、地域から生まれるイノベーションが世界を動かす可能性に期待を寄せた。本セッションは、食を通じて「健康」「地球環境」「社会の包摂性」を同時に追求するための戦略と連携の重要性を再確認する場となり、登壇者それぞれが分野を越えた協働の必要性を強く訴える形で締めくくられた。
出演者情報
モデレータ
©WBCSD
エメリン・フェルス
持続可能な開発のための世界経済人会議(WBCSD)の農業・食品担当シニアディレクター
エメリン・フェルスは、持続可能な開発のための世界経済人会議(WBCSD)の農業・食品担当シニアディレクターである。60以上の企業と約30チームメンバーを含む組織の農業と食品の経路をリードしている。WBCSDのExtended Leadership Groupのメンバーであり、The Beans is Howボード、Regen10のハイレベルアドバイザリーグループ、World Benchmarking Allianceのエキスパートレビュー委員会のメンバーでもある。
WBCSDに参加する前は、Sustainable Agriculture Initiative(SAI)プラットフォームで14年間勤務。組織の構築に貢献し、退職後は3つの設立会社から100人近くのメンバーに成長した。SAI Platformでは、コーディネーター、学習および実装責任者、副ゼネラルマネージャーなど、いくつかの役割を担った。その間、ネスレの持続可能な農業チームの水に特化した戦略もサポートした。それ以前は、国連環境計画(UNEP)の経済貿易部門(ETB)でアソシエイト・エコノミック・アフェアーズ・オフィサーとして2年間勤務した。
エメリン・フェルスは農学者で、天然資源の経済学と政策を専攻。また、イェール大学経営大学院&ESADEビジネススクールのWBCSD LEAPサステナビリティプログラム、エグゼクティブ教育を卒業した。
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登壇者
ジョアオ・カンパリ
グローバルリーダー 食と農業の実践 WWFインターナショナル&チェア アクショントラック3 国連食料システムサミット
ジョアオは、WWFのフード&アグリカルチャープラクティスのグローバルリーダーであり、世界中のフード&アグリカルチャーシステムの持続可能性を高めるためのネットワークの取り組みを担当している。ネイチャーポジティブな生産、健康的で持続可能な食事、食品ロスと食品廃棄物の削減を実現するソリューション(WWFのカントリーオフィスおよび100か国以上の外部パートナーと共同設計)する学際的なチームを率いている。WWFでの役割と並行して、国連食料システムサミットのアクショントラック3の議長を務め、ネイチャーポジティブな食料生産システムに関するサミットの作業を主導。WWFの前は、ブラジル農業大臣の特別環境・持続可能性アドバイザーを務めた。また、多国間および二国間機関(世界銀行、UNDP、DFID)、ブラジル連邦政府(環境省、農業省)で技術職および管理職を歴任し、ブラジル、アルゼンチン、ボリビア、パラグアイの各国政府および地方政府に対して、社会経済農村開発と自然保護を組み合わせた地域開発政策の立案と実施について助言を行った。13年間、ザ・ネイチャー・コンサーバンシーでラテンアメリカのプログラムディレクター、ブラジルのエグゼクティブディレクター、グローバルランドプログラムのチーフエコノミストとして勤務した。また、国際関係と経済学の学士号、経済学の修士号、環境経済学の博士号を取得し、ハーバードビジネススクールの一般経営プログラムを卒業。熱帯林破壊の経済学に関する2冊の本を出版しており、2014年には、農業と保全に関して行われた破壊的な取り組みにより、農業部門のブラジルのリーダートップ100にノミネートされた。NGO、グローバルな農業食品プラットフォームおよび企業の諮問委員会および運営委員会、および世界経済フォーラムのフードシステムイノベーションに関するグローバルフューチャーズカウンシルの委員を務めている。
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小野郁
味の素株式会社 執行役 コーポレート本部 サステナビリティ推進部 部長
健康と栄養の分野、特にアミノ酸の生理学的研究や製品開発に従事し、栄養や食品の規制を専門とする。幼少の頃からトレッキングやサイクリングを趣味とし、地球環境や食・栄養に関する問題に強い関心を持つ。欧州駐在中にサステナビリティの責任者を務めた後、その活動に専念し、現在は本社で経済価値と社会価値の同時創造を精力的に推進しています。
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シャクンタラー・ハラクシン・ティルステッド
CGIAR 栄養、健康、食料安全保障インパクトエリアプラットフォームのディレクター
シャクンタラー・ハラクシン・ティルステッドは、CGIARの栄養、健康、食料安全保障インパクトエリアプラットフォームのディレクターである。水生食料システムに対するホリスティックで栄養に配慮したアプローチの開発における画期的な研究と画期的なイノベーションにより、2021年の世界食糧賞を受賞した。研究イノベーションに対して2021年のArrell Global Food Innovation Awardを受賞した。国連食料システム調整ハブの科学諮問委員会(SAC)の議長である。また、国連世界食料安全保障委員会(CFS)の食料安全保障と栄養に関するハイレベル専門家パネル(HLPE)の運営委員会のメンバーであり、国連食料システムサミット2021:アクショントラック4 - 公平な生活の推進の副議長を務めた。2022年、シャクンタラはEAT-Lancet 2.0委員会の共同議長に任命された。デンマークの王立獣医農業大学で博士号を取得。スウェーデン農業科学大学と西インド諸島大学から名誉博士号を授与されている。
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食と暮らしの未来 ウィーク
100億人のための健康で持続的な食提供
本プログラムは、テーマウィーク全体協賛者と連携して博覧会協会が企画・実施する「アジェンダ2025」の一つです。「どうすれば将来の人口100億人のためにプラネタリー・バウンダリーの中で生産された栄養価が高い食を確保できるか」というセントラルクエスチョンを中心に、トークセッションが展開されます。
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2025年06月16日(月)
10:00~12:00
(開場 09:30)
- テーマウィークスタジオ
- ※プログラム開催時間・内容は掲載時点の予定となります。変更については、当WEBサイトや入場券予約システム等で随時お知らせしてまいります。
- ※プログラムの性質上、実施主催者の都合等に因り、ご案内時刻等が変動する可能性があります。
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