EXPO2025 Theme Weeks

プログラム内容

日本語
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本プログラムは、テーマウィーク全体協賛者と連携して博覧会協会が企画・実施する「アジェンダ2025」の一つです。「持続的な食提供に寄与する地域ごとの優れた食の知恵をどのように継承できるか、これからのライフスタイルの中で食による幸せや楽しさをどのように発展させられるか」というセントラルクエスチョンを中心に、トークセッションが展開されます。

実施レポート

<プログラム要旨>
本プログラム「食文化の継承・発展」は、大阪・関西万博テーマウィークの「食と暮らしのウィーク」において、2025年6月16日に開催されたセッションである。本セッションでは、日本の伝統的な食文化とその継承、さらに現代社会における食の役割と価値について、専門家たちが多様な視点から議論を展開した。食を通じたコミュニティ形成や持続可能性、健康、教育とのつながりなど、食文化が多層的に持つ意義が明らかにされ、未来社会における「文化としての食」の在り方を問い直す契機となった。

<登壇者発言要旨 外村 仁氏>
モデレーターを務めた外村仁氏は、フードテックの最前線に身を置く立場から、現代の食文化が直面する課題と展望を俯瞰的に語った。冒頭、外村氏は「食は文化であり、社会と個人をつなぐインターフェースである」と述べ、技術革新が食に与える影響が単なる利便性向上にとどまらず、価値観や生活様式の転換にも関わると指摘した。とりわけ、気候変動や食料危機といった地球規模の課題に直面する中で、食の持続可能性をどう確保するかが重要な論点であるとし、従来の大量生産・大量消費モデルからの脱却を訴えた。その上で外村氏は、発酵や植物由来原料など自然の循環を活かした食の再構築に向けた取り組みが、単なる技術ではなく「文化的変革」として広がっていくべきだと強調。また、地域の食材や技術、知恵に根ざした「ローカル・ガストロノミー」の再評価が、世界的な視野の中で求められていると語り、日本の発酵文化や郷土料理に内在する価値を改めて見直す必要性を提示した。外村氏は、世界各地の食の担い手たちとの連携や対話を通じて、新しい時代の食文化のモデルを共創していく可能性についても言及。とくに、今日の若い世代が食に込める思いや選択が未来を形作るという視点から、教育やテクノロジーを介して次世代への価値継承を図るべきだと述べた。最後に外村氏は、本セッションが「食文化の持つ多様性と力強さを再認識し、未来への糸口を見出す場」になることを願い、登壇者それぞれの実践が新しい共創を生む起点となることへの期待を込めて、議論の導入を締めくくった。

<登壇者発言要旨 アイネス・クック氏>
カナダ・バンクーバーを拠点とする先住民起業家、アイネス・クック氏は、自身のアイデンティティと料理のルーツに触れながら、先住民の食文化継承への思いを語った。クック氏は、過去に先住民としての背景を隠さざるを得なかった自身の経験をふまえ、「食を通して、自分の文化と再びつながることができました」と述べた。彼女の料理は単なる再現ではなく、失われかけた伝統を現代に翻訳し、次世代へつなぐ手段として位置づけられている。クック氏は、伝統的な食材や調理法を尊重しつつ、現代の感性と技術を取り入れることで、新しい形の先住民料理を創造している。彼女が運営するレストランでは、シカやサーモン、ベリー類など地域に根ざした素材を活かし、ストーリーテリングを通じて食の背景にある文化的意味や歴史を伝えているという。また、先住民コミュニティとの連携も重視しており、食材の収穫や調理において地域との協働を行いながら、「食は癒しをもたらす文化的な側面」と語った。クック氏は、自身の活動が若い世代や非先住民にも影響を与えていると感じており、食文化が「壁を壊し、架け橋をつくる」可能性を秘めていると力強く訴えた。彼女にとって料理とは、傷を癒し、尊厳を取り戻し、未来へ希望をつなぐ文化的な営みである。最後にクック氏は、「料理人は文化の語り部である」と締めくくり、食を通じた共生と尊重の精神が、持続可能で多様性に満ちた社会を築くための鍵になると強調した。

<登壇者発言要旨 アナ・ロバト・フォント氏>
サンフランシスコ・デ・キト大学で食の研究と教育に携わるアナ・ロバト・フォント氏は、南米アンデス地域における持続可能な食文化の実践とその教育的価値について語った。フォント氏は、エクアドルを含むアンデス地域の先住民社会において、食が単なる栄養摂取ではなく、自然との共生・共同体とのつながり・精神的営みと深く結びついていると指摘。彼女が指導する大学のプログラムでは、地域の農家と協働して伝統食材の復権を図り、環境負荷の少ない栽培法や調理技術の伝承に力を入れているという。フォント氏は、現代において食のグローバル化が進む一方で、ローカルな知識や食文化が失われつつあることに強い危機感を示し、「地域に根ざしたガストロノミーこそが未来を守る鍵である」と強調した。また、食材や料理にはその土地の気候・歴史・民族性が色濃く反映されており、それを学び直すことが、持続可能性と文化的多様性を同時に高める道だと語った。フォント氏の活動は、学生たちに畑作業や市場調査など実地体験を通じて「食の背景を身体で学ぶ」教育を提供しており、彼女自身も日々の授業や研究を通して、食文化が人と人、人と自然を結ぶ「対話の装置」であることを実感していると述べた。さらに、フォント氏は女性の視点からの食文化継承にも触れ、料理や保存食、儀礼食の伝統が女性たちの手によって日常的に受け継がれてきたことに光を当て、「食文化は女性の知の体系でもある」と語った。最後にフォント氏は、食を通じて文化と自然の持続可能な関係を再構築し、地域に根差した知恵を次世代に継承していくことが、地球規模の課題解決への貢献につながると訴えた。

<登壇者発言要旨 林 亮平氏>
日本料理「てのしま」の店主である林亮平氏は、料理人としての修業の原点から現在の活動までを振り返りながら、食文化の継承と革新の両立について語った。京都の老舗料亭「菊乃井」での経験を経て、自らの店を構えるに至った林氏は、日本料理の根幹にある「季節を映す」精神と、素材に対する深い敬意を継承してきたと述べる。一方で、現代の食環境や価値観の変化に対応する柔軟さも求められるとして、伝統を守るだけでなく「問い直す勇気」も重要だと指摘。林氏の店「てのしま」は、瀬戸内海の島々を中心とした国産の旬の食材を用い、その土地の風土や歴史を皿の上で表現することを目指している。この取り組みには、単なる地産地消ではなく、「土地と人、料理を通じて結び直す」という想いが込められているという。林氏はまた、食材の生産者との対話を重視しており、漁師や農家との信頼関係を築く中で、食材の背景にあるストーリーを客に届けることが、食文化の継承に不可欠であると強調した。さらに、林氏は若手料理人の育成にも力を注いでおり、「技術だけでなく哲学を伝えることが料理人の責務である」と語った。現代の料理人は、表現者であると同時に、社会や環境とどう向き合うかを問われる存在であり、「一皿の料理が社会に何を投げかけるか」を常に意識しているという。最後に林氏は、日本料理が培ってきた繊細さと奥行き、そしてそれを次代へとつなぐ姿勢こそが、世界の食文化に対しても大きな示唆を与える可能性があると述べ、「食文化の継承は、日々の実践の積み重ねの中にある」と締めくくった。

<登壇者発言要旨 酒井 里奈氏>
酒井里奈氏は、株式会社ファーメンステーションの代表として、発酵をキーワードにしたサーキュラーエコノミーの実践について語った。もともとM&A業務に従事していた酒井氏は、未利用資源の活用をしたくて、発酵、微生物について学び、その中で、岩手県奥州市において休耕田という未利用資源の活用からスタート、今では休耕田に限らず、幅広い食品残さなどの未利用資源を活用する事業に取り組むようになった。彼女が率いるファーメンステーションでは、食品工場や飲料工場での製造プロセスで排出される残さや、例えばコーヒー粕、米ぬか、規格外食品などを原料に、発酵調味料、フレイバーアルコールなどへと転換する発酵技術を開発。単なる未利用資源のAcademyとのにとどまらず、それが地域の経済や雇用、コミュニティ形成にも寄与していることを紹介した。また酒井氏は、発酵がもつ「つなぐ力」に注目し、人・微生物・地域をつなげる媒体としての発酵文化の可能性を強調。発酵という生命活動に着目することで、人間が自然と共に生きることの意味を再確認できるとし、「微生物に学ぶ」という視点の重要性を提示した。さらに同社では、企業や行政、農家と連携し、発酵による地域循環モデルの構築を目指しており、酒井氏は「技術だけでなく、文化としての発酵の価値を未来に伝えていきたい」と語った。発酵の実践は、小さな規模であっても着実に社会を変えていく力があると酒井氏は語り、今後も微生物と人との共創によって新しい食文化と社会の形を模索していく決意を示した。

<セッション後半 発言要旨>
セッション後半では、「食文化をいかに次世代に継承し、発展させていくか」という共通のテーマを軸に、登壇者間で多角的な意見交換がなされた。まず外村仁氏は、各登壇者の実践に共通して見られるのは「食を通じて社会や自然と再びつながる」という視点であり、それが世界中で同時多発的に起きていることの意義を強調した。酒井里奈氏は、企業や教育の現場において「発酵」というアプローチが感性と理性の両方を刺激し、自然との共生を直感的に理解する入口になり得ると語り、体験型の教育の必要性を説いた。林亮平氏は、料理人の立場から「作る側と食べる側の距離」が拡大していることに懸念を示し、料理の背景や物語を伝えることで、食に対する感受性を高められるのではないかと提案した。アイネス・クック氏は、自らのアイデンティティと食を通じた文化再生の重要性を再度強調し、特に若い世代が自分たちのルーツを肯定できるような環境づくりが必要だと述べた。アナ・ロバト・フォント氏は、地域の食文化に触れる教育が「知識」ではなく「関係性」を築くことに重点を置くべきだとし、料理が人と土地、人と人をつなぐ回路になり得ると語った。議論の中ではまた、持続可能性の観点から「大量生産・大量消費」モデルからの転換や、ローカルな知の再評価、さらには女性や先住民が担ってきた知恵の見直しといったテーマも交わされた。外村氏は、食の未来にはテクノロジーの可能性と同時に文化的土壌の醸成が欠かせず、「食を語ることは、生き方そのものを語ること」と締めくくった。登壇者全員がそれぞれの立場や実践を通して、食文化がもつ包摂性、循環性、創造性に共感し合い、未来社会に向けた新しい価値のあり方を提示するセッションとなった。

出演者情報

モデレータ

外村 仁

Food Techエバンジェリスト、投資家

BainやApple社で戦略策定や市場開発に従事後、2000年にシリコンバレーに移住しテックベンチャーを共同創業、$12Mの資金調達から企業売却までを経験。2010年よりエバーノートジャパン会長を務める傍ら、フードテックの黎明期から現地で関わり、その後フードテック共創プログラムFood Tech Studio - Bites! を創設。また日本での最初のフードテックカンファレンスSKS Japanを共同創設し、同メンバーと「フードテック革命」を日経BPより出版。
現在、スクラムベンチャーズ、All Turtles、mmhmm等多くのスタトアップでアドバイザーを務める。Basque Culinary Centerのインキュベーション施設「LABe」メンター。Gastronomy Innovation Campus Tokyoのアドバイザー。京都芸術大学「食文化デザインコース」客員教授。東京大学工学部卒、スイスIMDでMBA。

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登壇者

酒井里奈

株式会社ファーメンステーション 代表取締役

ICU卒業後、富士銀行、ドイツ証券などでM&Aや経営企画などに従事。その後、発酵技術を学ぶために東京農業大学応用生物科学部醸造科学科に入学、09年3月卒業。同年、未利用資源を機能性のある素材や製品にする事業に取り組み、サーキュラーエコノミーの実現を目指すバイオものづくりスタートアップであるファーメンステーション設立。
SusHi Tech Challenge 2024 最優秀賞、VIVA Technology 2022 Japan X France Startup Pitch Winner、Japan Beauty and Fashion Tech Awards 2022 beauty tech大賞など受賞

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林 亮平

てのしま店主

1976年香川県丸亀市生まれ、岡山県玉野市育ち。立命館大学卒業後、2001年株式会社菊の井に入社し、老舗料亭『菊乃井』の主人・村田吉弘氏に師事。20以上の国や地域で和食を普及するためのイベントに携わった。2018年『てのしま』開業。京都で習得した日本料理の技法、海外で磨いた知見と感性をもって郷土“せとうち”と向き合い、自らのルーツ:香川県“手島(てしま)”を目指している。日本料理アカデミー正会員、食文化ルネッサンスメンバー、Chefs For The Blueメンバー。

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©Inez Cook

アイネス・クック

レストランター、著者

アイネス・クックは、ニューホーク民族の誇り高き一員として、ブリティッシュコロンビア州バンクーバーで育った。バンクーバーのダウンタウンにある受賞歴のあるサーモン&バノックビストロの共同創設者兼オーナーであり、カナダの空港で最初の先住民族のレストランであるバンクーバー国際空港出発ターミナルのサーモンアンドバノックオンザフライのオーナーでもある。最近、世界の国々に住み国際的文化を賛美してきた33年間の航空会社勤務を引退し、アイネスはいつも人々を旅に連れて行くことにあこがれていたが、結局は自分自身の旅に人々を連れていくところに戻ってきた。また、「The Sixties Scoop」と「Sixties Scoop: Reconnection」の著者でもあり、自分の体験談を共有している。マスケアム、スコーミッシュ、ツレイル・ワウトゥスの伝統的なコースト・セイリッシュの領土に感謝を捧げている。(šxwməθkwəy̓əmaɁɬ təməxw, Skwxwú7mesh-ulh Temíx̱w と səl̓ilwətaɁɬ təməxw)

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アナ・ロバト・フォント

San Fracisco de Quito University、研究開発責任者

アナ・ロバト氏は、サンフランシスコ・デ・キト大学において教員を務めるとともに、ガストロノミー研究開発部の部長を務めている。研究は、料理学、フード・イノベーション、持続可能性に重点を置き、学術界、地域社会、食品産業間の協力関係の強化を目的としている。特に、エクアドルの食材の新たな応用や地域の食文化の保存・発展を探求し、社会経済の発展に貢献するプロジェクトを推進している。
また、クララ・レストランの共同設立者兼パートナーとして、メニューの研究開発を担当している。同レストランは「ラテンアメリカのベストレストラン50」において第88位にランクインし、「ラテンアメリカの注目すべきレストラン2024」を受賞している。地元の生産者や料理技術と連携し、地域の伝統的な知識に基づいた独自の食体験の創出に取り組んでいる。 さらに、スペインからエクアドルへ移住後、「Sabores de Ecuador: Food Tech para la Innovación Alimentaria」を設立し、その運営に携わっている。本プロジェクトは、エクアドルの海岸、アンデス、アマゾン地域における料理研究施設のネットワーク構築を目的とし、食のイノベーションや研究を推進するとともに、絶滅危惧種の保全を視野に入れた新商品の開発を促進している。
バスク・カリナリー・センターにてガストロノミー・料理技術の学士の学士号を取得し、バルセロナ大学にて食品開発・イノベーションの修士号を修了している。

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食と暮らしの未来 ウィーク

食文化の継承・発展

  • 20250616日(月)

    13:3015:30

    (開場 13:00)

  • テーマウィークスタジオ
  • ※プログラム開催時間・内容は掲載時点の予定となります。変更については、当WEBサイトや入場券予約システム等で随時お知らせしてまいります。
  • ※プログラムの性質上、実施主催者の都合等に因り、ご案内時刻等が変動する可能性があります。

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